研究課題/領域番号 |
20K01364
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯田 秀総 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 准教授 (80436500)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 発行開示 / ディスクロージャー / 金融商品取引法 / 情報開示 / 上場 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、株式などの有価証券の発行の際に、有価証券届出書の届出を中心とする金融商品取引法の発行開示規制を発動すべき場合はどのような場合かという問題を考えるにあたり、発動の必要性を根拠づける原理は何であるかを検討することにある。 本年度は、第1に、発行開示規制の重要な制度の一つである目論見書の交付義務について検討した。すなわち、投資者が交付目論見書を受領して有価証券を取得する契約を締結した後に、金商法7条1項の規定により有価証券届出書の訂正届出書が提出された場合に、当該訂正届出書に記載した事項を記載した目論見書(訂正目論見書。金商法15条4項参照)を投資者に交付する必要があるかどうかを検討し、その必要はないことを明らかにした。訂正届出書が提出される場合は、あらたに発行開示規制を発動するべき場面が含まれるものの、訂正届出書の提出はそのような場面以外にも行われるため、このような結論に至った。この論点も含む、金融商品取引法の諸問題について、実務に精通した弁護士との共同研究の成果を書籍にまとめて公表した。 第2に、東京証券取引所の市場区分の再編について分析した。会社が上場する際に公募・売出しという発行開示規制が発動される行為が行われるため、市場区分の見直しに伴う上場基準の変更のあり方は、発行開示規制の在り方を検討する際に重要な問題である。 第3に、金融商品取引法の基礎的な理解を深めるため、主要株主の短期売買差益返還義務の立法の経緯を検討し、アメリカ法の日本法への継受のされ方を分析した。そこでは、アメリカ法の立法の経緯での議論に忠実に継受した部分と、そうとは言えない部分があることを明らかにした。発行開示規制もアメリカ法から継受した部分があるため、発行開示規制についてもその継受の在り方を再検証する必要性があることを間接的に示すものといえる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の問題意識である、情報の非対称性がない場面においても発行開示規制が適用されてしまうことの問題点や、販売圧力の有無を問わず発行開示規制を発動するべき場面があることなどの解明のための作業がかなり進んだ。
|
今後の研究の推進方策 |
最近の新しい重要な論点として、米国におけるSPACという買収目的会社との合併による上場に際して、実質的には発行開示規制が発動されるIPOと同様の問題状況があるのに、合併という形式をとるがゆえにそれが発動されないという問題がある。この問題は、発行開示規制と継続開示規制の交錯の問題として、発行開示規制の基礎が問われるとともに、日本へのSPAC導入の是非も東京証券取引所などで検討される今日的な問題でもある。この問題は、発行開示規制の発動を基礎づける根拠の再検討を行う本研究にとって特に重要なものであるから、これについての分析を深めて、本研究の成果を公表することを目標とする。
|