本研究の目的は、株式などの有価証券の発行の際に、有価証券届出書の届出を中心とする金融商品取引法の発行開示規制を発動すべき場合はどのような場合かという問題を考えるにあたり、発動の必要性を根拠づける原理は何であるかを検討することにある。 これまでの研究より、販売圧力がかかるかどうかが発行開示規制の発動根拠のすべてではなく、情報開示の非対称性を解消するべき場合かどうかこそがその発動根拠の中心であると考えるべきであるという暫定的な結論を得た。 そこでこの暫定的な結論を応用して、本年度は、第1に、米国における、SPACという買収目的会社との合併による上場に際して、実質的には発行開示規制が発動されるIPOと同様の問題状況があるのに、合併という形式をとるがゆえにそれが発動されないという問題があり、この場合には販売圧力の問題はないといえるものの情報の非対称性の解消のために開示規制を及ぼすべきではないかという論点があることを明らかにした。あわせて、仮に情報開示されたとしても、その情報をアマ投資家が自ら読んで理解して投資判断につなげることを期待することには限界もあることも明らかにした。なぜならば、通常の場合であれば、正確な情報が開示され、それが市場価格に反映されるので、アマ投資家は開示された情報を調査せずとも市場価格を信頼して株式を取引することでアマ投資家の実質的な保護が達成できるのに対し、SPACの場合は、株式を固定価格で買い取ることを請求できるという償還権の影響を受けてSPACの合併前の株価は形成されるから、開示情報を反映した価格形成が行われにくいという限界があるからである。 第2に、本研究の成果を踏まえて、発行開示規制を含む金融商品取引法の全体にかかる概説書を発刊した。
|