研究課題/領域番号 |
20K01367
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉政 知広 京都大学, 法学研究科, 教授 (70378511)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 民事法学 / 契約法 / 組織型契約 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、主に企業が互いのノウハウ、情報等を持ち寄って事業等を行なう「組織型契約」を検討の対象として、①契約の解釈(内容確定)方法に関する準則の提示、②契約の締結過程に妥当する規律の解明、③契約の解消が認められる要件論の提示という3点を主たる課題として研究を遂行している。研究の方法に関する特徴として、①隣接諸科学の知見も摂取し、「組織型契約」の基礎理論を構築するという理論的・基礎的な研究と、②「組織型契約」の解釈、成立、解消にかかわる具体的な問題を素材として、解決指針や解釈論を提示する各論的な研究という、2つの系統の研究を並行して進めている。 本年度(令和3年度)は、理論的・基礎的な研究の成果として、「組織型契約」を含む契約の不履行があった場合における最も基本的な救済手段である「履行の強制」(債権者の履行請求権)に関する注釈を刊行した(民法の注釈書における414条部分の執筆)。当該注釈は、「履行の強制」に関する日本法の状況を包括的に、かつ体系的に整理するものである。 各論的な研究の成果としては、企業が消費者と取引を行なう場面にも目を向けて、消費者法分野における立法のあり方を検討する書籍を分担執筆した。本研究課題の成果として公表した分担執筆部分は、消費者法分野における立法の形式について民事法学の視点から理論的に検討するものであり、従来の日本の民事法学においてほとんど検討されてこなかった課題に正面から取り組むものである。 また、昨年度に引き続き本年度も、新型コロナウィルス感染症の拡大が契約関係にどのような影響を及ぼし、どのような法的な対応が求められているのかという問題に関して発信を求められる機会が少なくなかった。そのような社会の要請にも、本研究課題に関連する範囲で応えられるように努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、①「組織型契約」の基礎理論を構築するという理論的・基礎的な研究と、②「組織型契約」の解釈、成立、解消にかかわる具体的な問題を素材として、解決指針や解釈論を提示する各論的な研究という、2つの系統の研究を並行して進めているところ、理論的・基礎的な研究の主だった成果として、「組織型契約」を含む契約の不履行があった場合における基本的な救済手段である「履行の強制」に関する包括的な注釈を、本年度(令和3年度)に公表することができた。もっとも、理論的・基礎的な研究の最終的な目標は、諸外国の契約法理論のほか、隣接諸科学の知見を摂取した上で、「組織型契約」に関する基礎理論を構築するという点にあり、今後さらに研究を重ねる必要がある。 各論的な研究の主たる成果としては、昨年度(令和2年度)に、会社法学を専門とする研究者、および、企業法務に携わる実務家(弁護士)との共同研究を踏まえて、会社・株主間契約に関する書籍を分担執筆したほか、本年度(令和3年度)には、企業が消費者と取引を行なう場面にも目を向けて、消費者法分野における立法のあり方を検討する書籍を分担執筆した。このように、すでに研究成果が刊行されているもの以外にも、支払決済法に関して専門の研究者・実務家との共同研究を開始しているほか、「組織型契約」の解消にかかわる諸問題についても分析を進めてきており、それらの研究成果を近日中に公表できるように努める。 さらに、本研究課題の申請時には想定していなかったこととして、2020年以降、新型コロナウィルス感染症の拡大が深刻化し、法律学も、ポスト・コロナ社会のインフラストラクチャーとなりうる法理論を提示するよう強く求められることになった。そのような社会的な要請に応えるべく、コロナ禍が契約関係にどのような影響を及ぼすのかという問題を中心に、本研究課題の成果を踏まえた発信も行なってきている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(令和4年度)は、第1に、本研究課題において進めてきている2つの系統の研究、すなわち①理論的・基礎的な研究と②各論的な研究の結節点に位置づけられる重要な課題として、契約の解釈に関する研究に取り組む予定である。契約の解釈に関する研究成果は、研究者と実務家が参加する会合において報告を行ない、適切な媒体で公表することを予定している。さらに、②各論的な研究として、企業間の取引において不可欠な問題である「支払決済」に関して、専門の研究者と、先端的な実務にかかわっている実務家が組織した共同研究に参加する機会を与えられており、その成果と本研究課題の成果と結びつけた研究を進めることを予定している。その他にも、②各論的な研究としては、「組織型契約」の解消にかかわる諸問題についてこれまでの研究成果を踏まえた分析を進め、①理論的・基礎的な研究としては、引き続き隣接諸科学の知見の摂取を進めるだけでなく、それを「組織型契約」の基礎理論に結びつけた研究成果を早く公表することができるように努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時以降に深刻化した新型コロナウィルス感染症の影響が続いており、旅費の支出がなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。次年度以降、国内外の出張が可能な状況となれば旅費に充てるほか、オンラインで研究会・打合せなどを行なうための機器の購入に充てることを計画している。
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