研究課題/領域番号 |
20K01369
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
八田 卓也 神戸大学, 法学研究科, 教授 (40272413)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 民事執行 / 承継執行 / 執行力の拡張 / ドイツ民事訴訟法 |
研究実績の概要 |
コロナ禍の制約の中、所属機関内で入手できない文献は、所属機関の図書館を通じて、日本国内の他の研究機関や、海外の研究機関から取り寄せる等して、必要な資料を収集・閲読し、科研費を用いて購入したノートパソコン・デスクトップパソコン等を利用してこれらの内容を整理しとりまとめ、口頭弁論終結後の承継人に対する執行力の拡張について、以下のような知見を得た。近く、その内容を民商法雑誌にて「口頭弁論終結後の承継人に対する執行力の拡張」と題した論攷にて公表予定である。 日本の民事執行法の母法たるドイツ法の普通法期から現行法までの立法および議論の変遷をたどったところ、①ドイツ法においても、[債務名義上の請求権+α=債務者承継人に対する請求権]という等式は前提とされている(すなわち執行力拡張事由としての「承継」は実体的なものとして捉えられてきた)こと、②しかし、ハノーファー草案起草者であるLeonhardtは、これを手続的なものと捉えていたこと、③ドイツ法は、債権者の利益のための執行の容易化・簡易化と、債務者保護の間でバランスを取るように腐心しているが、日本法はドイツ法と同じようなバランスの仕組みを欠くこと、をそこからの示唆として抽出できた。 以上から、(1)執行力の拡張の根拠を、(a)債権者の既得の強制執行によるかく取の維持と(b)債務者地位の伝来的取得による承継人に対する承継執行甘受の要求正当性に求めた上で、(2)執行力拡張事由たる「承継」は、被告地位を基礎づける法的地位の伝来的取得と捉え、(3)解釈論としては、執行文付与手続(簡易付与手続・執行文付与の訴えによる付与手続の双方)においては、この承継のみが確認されれば承継執行文を付与してよいとし、(4)立法論としては、上記承継は判決手続でなく決定手続で審理判断するように法改正をするのが妥当である、という帰結を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本科研を通じて明らかにしたいと考えたこと(:①承継執行制度自体の目的・その正当化根拠・承継執行の要件としての「承継」概念の理解について、日本法の母法であるドイツ法起草過程から現行日本民事訴訟法までの沿革を、(1)起草者意思を、そこで前提とされていた実体法理解との関連を意識しつつ明らかにすること、また、(2)それぞれの草案等を前提とした学説や判例理論の考えを内在的に掘り下げること、を通じて解明すること;②日本民事訴訟法上の承継執行の解釈論・立法論を展開すること)は、ほぼすべて明らかにしたため。 但し、上記②については、日本民事訴訟法上の承継執行の要件となるべき「承継概念」について、それが実体法上の概念ではなく手続法上の概念と理解されるべき所までは論証したが、そのように手続法上の概念として理解されるべき「承継」の内実をどのように理解するべきかについては、まだ十分な検討をなし得ておらず、その点を解明することが本研究課題における今後の課題の1つである。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、(a)これまでの研究成果をとりまとめた論攷を確実に公表に結びつけること、(b)上述【現在までの進捗状況】の理由欄で今後の課題とした日本民事訴訟法上の承継執行の要件としての「承継」概念の内実を具体的に解明すること、(c)アメリカやEU諸国といったドイツ以外の国における承継執行制度や承継執行の要件について、可能な限りで調査・研究をすること、を推進したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由:)コロナ禍による制約により、予定していた国内出張・海外出張が不可能となり、そのために予定していた支出がなくなったため。 (使用計画:)【今後の研究の推進方策】で述べた(a)(b)(c)の内容を進めるために使用する。具体的には、研究論文の公表のために必要なハードウェア(パソコン、スキャナ、プリンタ等)を必要に応じて購入するほか、国内外の文献の猟捕や、知見の収集のために必要な出張費用に充てたり、文献購入費として使用したりする予定である。
|