前年度に引き続き、とくに自動車事故における責任判断と責任保険の分析・検討を進め、また研究成果の公表を進めた。具体的には、aドイツ法において1909年に公布された自動車法(現在の道路交通法の前身である)の起草過程を掘り下げ、自動車の危険がどのように理解されていたかの分析・検討、bその後、ライヒ裁判所(RG)の判例の展開の分析・検討をそれぞれ進めた。aでは、自動車法の起草者は、自動車の固有の危険性として、高速度性を中心にみており、これと関係し政策的な理由も踏まえて、低速度の自動車を自動車法の適用対象から外していることを明らかにし、いわゆる機械工学的な理解に神話的な立場であることを明らかにした。ただし、その当時の自動車の有する危険性を念頭に置いたものであり、高速度性以外の危険性も付随的ではあるが検討の際に念頭に置いていることも明らかにした。 bでは、RGは、当初は高速度性に着目しつつも、車道上の停車を原因とする事故についても、走行目的等を踏まえて、なお運行に際して生じた事故であると判断したものや、自動車に設置された設備に起因する事故に関して、走行に関係するものかどうかに着目して、運行に際して生じた事故ではないとするものがあることを明らかにして、機械工学的な理解に立ちつつも、自動車の交通への関与・参加を理由とする交通工学的な理解に親和的なな立場を示す裁判例もあることを示した。とくに、bについては、ドイツ法の紹介において、RGにおいて機械工学的な理解が支配的とするたちばもみられたが、それはRGの展開を踏まえると必ずしも適切な理解ではないと考えられることを示した。
これらの研究成果は、後掲の成果でも明らかにするが、「自賠法における『運行』及び『によって』要件の再構成(3)独法・墺法に示唆を受けて」中央ロー・ジャーナル20巻3号27-58頁で公刊されている
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