研究課題
1 研究課題である性的被害に対する損害賠償請求権の消滅時効論の前提をなす消滅時効論全体の枠組みに関する理論的研究を行なった。(1)特に民法724条後段の「不法行為の時から20年」の起算点に関する筑豊じん肺訴訟・最高裁2004(平成16)・4・27民集58巻4号1032頁)が加害行為から相当期間経過後に損害が発生した時は損害発生時が20年期間の起算点であるとした画期的な判決の射程距離を詳細に検討し、<加害行為により発生した損害とは異質の損害が後から発生した場合は、その異質の損害の発生時を20年期間の起算点とすべき>という起算点論を析出し、それを成人後に顕在化した児童期の性的虐待被害事例にも応用できることを論じた(後掲の「異質損害の遅発と時効起算点」論文)。(2)また性的被害で発症しやすいPTSD(心的外傷後ストレス)が、現在の日本の判例の中でどのような機能を有するかという点につき、後掲の「PTSDの法的意義―直接の身体侵襲を伴わないPTSDの発症に対する損害賠償請求権の消滅時効期間論も見据えて」論文にまとめた。(3)その他、関連して,「民法旧724条後段20年期間=除斥期間説の違憲無効論」,「冤罪と時効」論文を公表した。2 性的被害に対する損害賠償請求権と消滅時効の問題については、後掲の講演「児童期性虐待被害の修復と<時の壁>」として研究成果を社会発信するとともに、セクシュアル・ハラスメント被害に焦点を当てた単著論文「セクシュアル・ハラスメント被害の法心理」立命館法学398号(既に念校提出、2021年6月発行予定)に成果をまとめた。後者では、日本におけるセクシュアル・ハラスメントをめぐる裁判例で性的被害を受けた被害者の心理的特徴を臨床心理学や精神医学の最新の知見を踏まえて適切に扱っているかという視点から詳細に検討した。
2: おおむね順調に進展している
おおむね順調に進展しているが、コロナ問題のため、予定していた韓国、ドイツでの実地調査ができなかった。
(1)児童期の性的被害が成人後に残存、顕在化した場合の消滅時効論について、具体的な法解釈論、立法論を深めるための研究を推進する。特に2021年2月の上記講演会で講演した「児童期性虐待被害の修復と<時の壁>」をもとに単著論文を作成する。(2)また、性的被害に対する損害賠償請求権が被害の回復にとって有する意義についても、公表されている被害者自身の手記や報道記事などをもとに検討を深める。(3)法学に関する文献だけではなく、性的被害に関する臨床心理学、精神医学の最新の知見についても国立国会図書館で文献を収集するとともに、過去の著名な児童期性的虐待被害について成人後に損害賠償請求訴訟が提訴され、それが報道された事案について、全国紙だけではなく、事件が起きた当時の地元の新聞報道記事なども収集する。(4)コロナの影響で、予定していた韓国、ドイツへの海外出張が当面実現困難のため、可能な範囲で国内で関連資料を収集するための出張を行う。(5)性的被害の回復に関連して、法と心理の観点から日本の判例の状況を批判的に検討するためのワークショップを観点する学会(法と心理学会など)で企画し実現する。
コロナ感染拡大状況のために、予定していた海外出張、国内出張ができなかったために次年度使用額が生じた。次年度は、コロナ感染状況をみてまず国内出張に支出予定である。
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立命館法学
巻: 393・394号 ページ: 660-686
10.34382/00014261
末川民事法研究
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10.34382/00014097