研究課題/領域番号 |
20K01381
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
松本 克美 立命館大学, 法務研究科, 教授 (40309084)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 児童期性的虐待被害 / 損害賠償請求権 / 消滅時効 |
研究実績の概要 |
1 昨年度に引き続き、研究課題である性的被害に対する損害賠償請求権の消滅時効論の前提をなす消滅時効論全体の枠組みに関する理論的研究を行なった。具体的には、不法行為による損害賠償請求権の長期の期間制限を定めた民法724条の「不法行為の時から20年」の「不法行為の時」の起算点解釈をめぐり、私見がこれまで研究してきた潜在的被害に関する損害類型別の起算点論を更に発展させ、顕在化型損害の場合にも早期の権利行使が客観的に困難な場合があることを指摘し、そのような損害類型として「再発型」と「進行継続型」損害を抽出し、それらの損害類型に即した起算点論を提起した(後掲・立命館法学398号論文)。また、退職記念講義において、損害賠償請求権の消滅時効をめぐる自分自身の研究史を振り返る中で、児童期の性的虐待被害の損害賠償請求権の消滅時効論をどう展開してきたかを総括し、この講義を活字化した(後掲・立命館法学399・400号)。 2 セクシュアル・ハラスメント被害の法心理に焦点を当て、なぜ被害者の権利行使が遅れるのか、裁判における被害認定の問題点などを検討する論考を発表した(後掲・立命館法学395号)。また東京地裁で係争中のセクシュアル・ハラスメント損害賠償訴訟について、セクシュアル・ハラスメント被害の法心理的特徴を踏まえた被害認定のあり方に関して、原告側の意見書を執筆した。 3 各地域の児童期の性的虐待被害をめぐる新聞報道がどのようになされてきたかを確認するため、広島市(2021年4月)、栃木県宇都宮市(2021年11月)、下関市、福岡市((2021年12月)、釧路市、札幌市、小樽市(2022年1月)の市立ないし県立図書館を訪問し、過去の地元紙の新聞記事を閲覧収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
児童期の性的虐待被害の特質に即した損害賠償請求権の消滅時効論の解釈論・立法論における現代化を図ることが研究課題のテーマである。その前提としての、損害類型に即した時効起算点論については、従来行ってきた潜在的損害類型における起算点論の展開に加えて、顕在化型損害類型においても、「再発型」「進行継続型」類型を抽出し、それらの損害類型に即した起算点論に関する試論を展開することができた。後2者は、児童期の性的虐待被害においても特徴的な損害類型であり、このような損害類型化は今後の起算点論の現代化に大きく寄与することができる見通しを得ることができた。また性被害に関する法心理的分析を加えることによって、性的被害の被害者が早期に損害賠償請求権を行使することが困難な客観的理由を析出することができた。このことも今後の性的被害に関する損害賠償請求権の時効論の進展に大きく寄与できる成果である。他方で、依然として続くコロナ感染状況のもとで、当初、予定していた韓国調査、ドイツ調査ができないでいる点は、当初の研究計画で予定していた両国での実態調査、文献調査等の制約となっている。
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今後の研究の推進方策 |
1 引き続き、損害類型に即した損害賠償請求権の消滅時効の起算点論の深化を目指す研究を進める。特に顕在型損害のうちの「再発型」「進行継続型」の起算点論を更に深めることを目指す。2 時効起算点論だけでなく、信義則違反、権利濫用を理由にした時効の援用制限論、20年期間の効果制限論についての判例・学説を踏まえた研究も進展させる。3性的被害の法心理学的研究を更に進めて、権利行使が遅れる要因と権利行使が実現する要因の両側面からの研究を進める。4児童期の性的虐待被害をめぐる報道について、引き続き、調査を行う。5 コロナ感染状況を踏まえつつ、可能であれば、韓国、ドイツ調査を実現し、児童期の性的虐待被害に関する法整備、立法論等を現地調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染状況の継続により、当初計画していた韓国、ドイツにおける実地調査が実施できないため、海外旅費を執行できなかったため、次年度使用額が上記のような金額になっている。今年度は可能であれば両国の実地調査を行う予定である。
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