研究課題/領域番号 |
20K01391
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
芳賀 良 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (00263757)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ダークプール / 仲値注文 / 搾取 |
研究実績の概要 |
今年度はダークプールと相場操縦などの不公正取引との関係を考察した。日本におけるダークプールは、「複数の顧客からの注文を電子的に付け合せる、取引前透明性のない(気配情報を開示しない)取引の場 」と位置付けられている。気配情報が公表されていないので、取引前の時点で、ダークプール内の相場や注文の有無・量が分からない状態で、ダークプールの利用者は、投資判断を行う必要があるのである。ダークプールの弊害は、①恣意的な運用、②利益相反、③情報の漏洩、④相場操縦、⑤仲値注文の搾取に分類できる。恣意的な運用(上記①)、利益相反(上記②)及び情報の漏洩(上記③)は、ダークプール運営者に対する監督により対応すべき問題となる。このことにより、高速取引行為を利用した相場操縦などの不公正取引も未然に防止できる。改正法の趣旨は、ダークプール内の処理や決済を、説明や監督を通じて明瞭化するものであり、上記の弊害を防止するものである。その意味で金商法令和2年改正は極めて有意義なものと評価できる。 次に、相場操縦(上記④)と仲値注文の搾取(上記⑤)の問題は、高速取引行為者(金商法2条42項)の取引戦略に結び付く論点である。相場操縦の問題は、従来から構築された相場操縦に対する規制理論により対応すべきであろう 。また、仲値注文の搾取の問題についても、ダークプールにおけるHFTトレーダーとの取引回避の選択肢を、ダークプール運営者が提供することにより対応するのであれば、この論点もダークプール運営者に対する監督により処理すべき問題に収斂されるであろう。 上記の検討から、証券取引所における価格の正確性を確保する観点から、高速取引行為者をダークプールから事実上排除する方法は、慎重に検討する必要があることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダークプールに関する検討については、アメリカにおけるダークプールの弊害を参考に、日本法における改正法の分析を行った。アメリカにおけるダークプールと日本におけるダークプールとにおいて制度上の違いがあるが、弊害には共通点がある。日本法の改正は、現時点で、ダークプールの弊害に十分対応するものと評価することができる。取引の多様性確保という政策的な観点からダークプールにおける取引を認めるのであれば、改正法が機能するように、不公正な取引に対する監視を十分に行う必要があることが明らかになった。 相場操縦の観点については、次のことが明らかとなった。まず、ダークプールにおけるピンギングについてである。取引の多様性確保という政策的な観点からダークプールにおける取引を認めるのであれば、ダークプールにおけるピンギングも、「詐欺としての相場操縦」と同視できる程度の大量かつ高速のピンギングを禁止の対象とすべきであろう。次に、広義のスプーフィングについてである。広義のスプーフィングと適法なHFTトレーダーによる注文取消しの区別が問題となるが、大量の注文の発注・取消しに、①終値関与、②仮装売買、③ストップ・ロス注文の利用が伴う場合や、アイスバーグ注文として発する小口注文の大部分が取り消され、④アイスバーグ注文が偽装された場合には、広義のスプーフィングを構成する可能性がある。そのため、これらの個別事情がある注文の発注・取消しは、広義のスプーフィングを構成し、相場操縦(金商法159条1項1号・2項1号)に該当する場合があると解される。従って、ダークプールにおける高速取引行為を利用した相場操縦については、従来から構築された相場操縦に対する規制理論により対応することができる 。これらのことが明らかとなったことから、研究計画は、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
変動取引による相場操縦と誘引目的については、既発表の論文において、以下のことを明らかにした。即ち、変動取引による相場操縦の場合、違法な相場操縦と適法な取引活動を客観的に識別することができるか否かが重要な問題である。適法行為と違法行為との区別を客観的な事実で識別できる類型を、変動取引による相場操縦として規制すべきことになる。また、変動取引による相場操縦が、アメリカの取引型相場操縦と同様に、相場操縦後の反対売買により利益を確定させる類型のものであれば、価格変動の非対称性が生じる可能性が必要である。これらの観点から、①逆指値注文(ストップ・ロス注文)の存在や②待機注文量の脆弱性の存在を利用する変動取引による相場操縦を規制対象とすべきであると考える。その理由は、これらの類型においては、価格変動の非対称性が生じるので利益を得る可能性があり、逆指値注文や待機注文量の脆弱性を確認するためのテスト注文の存在が、取引型相場操縦の客観的識別要件となるからである。従って、変動取引による相場操縦を行おうとする者が、上記のようにテスト注文を実行し、且つ、変動取引に着手した場合には、当該変動取引について「誘引目的」(金商法159条2項)の存在を満たす間接事実となると解する、と。 上記のことから、相場操縦の要件をAIとの関係から分析する場合、誘引目的や欺罔の意図などの主観的要件は、相場操縦の要件において、どのように位置付けられるのか、ということが問題となる。この点は、AIの特性を踏まえて、十分な検討が必要であると考えている。そこで、今年度は、相場操縦の要件をAIとの関係から掘り下げて分析することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
電子データベースの使用料が高額のため、前倒し請求をした。その関係で、若干の金額が残った。次年度は、書籍の購入が必要となるため、有益に利用できる。
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