研究課題/領域番号 |
20K01391
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
芳賀 良 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (00263757)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 相場操縦 / アルゴリズム |
研究実績の概要 |
「アルゴリズムと相場操縦-AIによる価格操作とその予防-」では、第1に、AIアルゴリズムを利用した相場操縦は、金商法157条1項1号の「不正の手段」に該当すると解されることである。第2に、AIアルゴリズムに対する監視義務の存在を前提に、AIアルゴリズムが相場操縦に該当する発注を行っていたことを認識していたにもかかわらず、当該アルゴリズムの作成者や利用者が、当該発注を阻止する手段を取らなかった場合には、金商法157条1項1号の故意があると解する余地があることである。AIアルゴリズムによる相場操縦の場合において、相場操縦の成立要件から主観的要件を除外することの可否という点が、今後の研究課題であることも判明した。 この問題意識を受けて、「アルゴリズムと証券詐欺-金融商品取引法157条1号の主観的要件に関する若干の考察-」では、AIアルゴリズムの特徴として、AIアルゴリズムのブラック・ボックス化のため、AIアルゴリズムの作成者と当該アルゴリズムの作動状況の因果関係が希薄になるため、アルゴリズムの作動状況から、作成者の意図を証明することは現実には困難である。作成者の主観的状態を証明するためには、単なる結果としての作動状況からではなく、その作動状況が法的に求められる注意基準からどの程度逸脱しているのか、という視点が必要であることが明らかとなった。①立法論ではあるが、AIアルゴリズムの作成者や利用者に対する緊急差止命令の発令する場合には、金商法157条1号の「不正の手段」に係る主観的要件を充足する主観的状態を、認識のある過失まで拡張することも検討すべきであろう。また、②証券取引を行うAIアルゴリズムの作成者に一定の注意義務を課す立法的措置を講じることが望ましいと思われる。同様に、利用者に対しても利用するアルゴリズムを点検・確認する法的義務を課す立法的措置を講じることも望ましいであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AIによる相場操縦、即ち、機械学習型アルゴリズム(AIアルゴリズム)を利用した相場操縦の要件事実を解明すべく研究活動を行った。AIアルゴリズムを利用した相場操縦は、金商法157条1項1号の「不正の手段」に該当すると解されることである。第2に、AIアルゴリズムに対する監視義務の存在を前提に、AIアルゴリズムが相場操縦に該当する発注を行っていたことを認識していたにもかかわらず、当該アルゴリズムの作成者や利用者が、当該発注を阻止する手段を取らなかった場合には、金商法157条1項1号の故意があると解する余地があることを明らかにできた。また、主観的要件に係る要件事実を掘り下げるために、AIアルゴリズムのブラック・ボックス化現象を分析した。AIアルゴリズムの作成者と当該アルゴリズムの作動状況の因果関係が希薄になるため、アルゴリズムの作動状況から、作成者の意図を証明することは現実には困難であるため、立法論ではあるが、AIアルゴリズムの作成者や利用者に対する緊急差止命令の発令する場合には、金商法157条1号の「不正の手段」に係る主観的要件を充足する主観的状態を、認識のある過失まで拡張することも検討すべきであろうことまで明らかにできた。このような理由から、おおむね順調に進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
研究の過程で、被害者支援の観点から要件事実を分析する場合には、証券詐欺による損害賠償責任に関するアメリカの判例法を分析する必要性に直面した。具体的には、損害と行為の因果関係が大きな課題となる。また、被告(相場操縦を行ったとされる者)からの抗弁の内容についても、検討を予定している。今年度は、これらの点について分析をする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に直接関連する新刊文献を見出すことができなかったことから、予算の執行を差し控えた。このため、次年度使用額が生じた。次年度においては、引き続き電子データベースを利用するために支出する。また、情報の整合性を確認するため、関連文献にも視野を広げて、書籍も購入する予定である。
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