最終年度は、相場操縦における重要類型である①契約型相場操縦と②取引型相場操縦について、分析を行った。まず、①契約型相場操縦とは、取引により相場操縦を行うが、契約から利益を得る類型である。そのため、相場操縦行為により損失を被ったとしても、契約による利益が相場操縦による損失を上回れば、契約型相場操縦を行うインセンティブは存在する。そのため、契約型相場操縦においては、事前規制も重要であることが明らかとなった。即ち、契約型相場操縦を予防する観点から、①ある時点の株価や指数を基準とする契約は、当該株価や指数が相場操縦の対象となる可能性があるため、契約の基準値については、一定時点ではなく、時間軸を拡大し、売買高なども考慮したものに変更すること、②契約当事者間で、一方当事者が何らかの手段で基準値を操作した場合には、他方当事者が損害賠償責任を負うことを契約で明記することにより、契約型相場操縦を予防し得る余地があることが明らかとなった。次に、②取引型相場操縦とは、取引により相場操縦を行い、取引のみから利益を得る類型である。本研究では、EUの市場濫用規則を参考に、アルゴリズム取引が複数の相場操縦に関する指標に該当する場合には、金融商品取引法159条2項所定の「誘引目的」の存在が推認できることを明らかにした。即ち、アルゴリズムを利用した取引型相場操縦については、相場操縦の指標の該当状況を考慮することにより、当該アルゴリズムの利用者における誘引目的の存在が推認され得ることが明らかとなった。即ち、アルゴリズムを利用した発注等が、①注文の執行・取消しの割合と影響、②注文や取引の集中と価格変動への影響、③最良気配を更新する注文の取消しに係る割合、という指標に複数該当する場合には、当該発注等は、相場操縦の動機が伴うため、誘引目的の存在が推認されると解されるのである。
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