研究課題/領域番号 |
20K01410
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
宮崎 裕介 日本大学, 法学部, 准教授 (20585096)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ペイアウト / 自己株式取得 / 財政出動 / 金融緩和 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、上場会社によるペイアウトについて、米国の判例・裁判例あるいは実務の動向を整理する作業に注力した。米国においては、我が国とは違い、ペイアウトをすることに対しての法規制はそれほど厳しくない。判例・裁判例を分析しても、会社財産の浪費などと判断され関与した取締役らの責任が問われることはあるが、例えば自己株式取得によりペイアウトする場合などを念頭に置くとBusiness Judgement Ruleにより取締役らの責任が結果として否定されるケースが多い。もちろん、これら判例・裁判例における判断の前提として、米国においては各州の会社法が自己株式取得あるいは配当でのペイアウトを基本的に許容していることが大きく影響していると思われるが、米国では投資に対するリターンを株主に還元すべきとする風潮がより強いことも無視できない。このような米国の事情を踏まえつつ、令和2年度においては、上場会社をめぐるペイアウトに関する法的問題の抽出を行った。なお、本年度に特有の事情として、新型コロナウイルスの感染拡大(以下「パンデミック」という)が挙げられる。すなわち、パンデミックにより、航空会社等の上場企業の業績が急激に悪化し、連邦政府などから資金援助を受けるに至ったことは周知の通りであるが、このような会社に対してはFRB(連邦準備制度理事会)がペイアウトによる株主還元の停止を求めた。そのため、対象となった企業はペイアウトを中断し、金融危機以降急激な増加傾向を辿っていた米国におけるペイアウトが、2020年に入って突如として頭打ちとなった。本研究では、以上を踏まえ、好況時と景気後退時における、言わば「クッション」としての役割をも担っている上場会社によるペイアウト(とりわけ自己株式取得)を考察するものであるが、パンデミックを受けた上記の動きは特筆されるものであり、本年度はその考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は、「研究実績の概要」でも述べた内容についての研究に注力し、特にリサーチを重視した。なかでも、好況時と景気後退時における「クッション」としてのペイアウトについての現状の位置づけを踏まえ、米国における法規制を分析する。研究成果は、令和3年度以降、順次公表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度においてリサーチをした「好況時と景気後退時における『クッション』としてペイアウトの位置付け」について論文を公表し、その妥当性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により、当初予定していた出張(国内および国外)が年間を通じてキャンセルとなったため旅費を一切支出しなかった。購入予定であった書籍(洋書)についても入手が困難となり予算を執行することができなかった。令和3年度は、前年度に予定していたものも含めリアルでの研究会等が開催される予定であり、可能な範囲での出張を行うことができる見込である。前年度から繰り越した旅費を充当する。
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