本研究においては、研究期間全体を通じて、①上場会社の自己株式取得に関連する諸問題を広く扱い、さらに②会社法・金商法上の主要論点に関する論稿を多く公表した。 ①では上場会社の自己株式取得のみならず株式会社の資本政策に関する問題として新株発行に係る法的問題点についても研究領域を拡げた。新株発行は、比喩的に表現すれば自己株式取得とは逆の行為(取引)に当たるが、株式会社をめぐるキャッシュフローの観点からは必ずしも無関係ではない。本研究では、上場会社ではない非公開会社において株主総会決議を欠いた場合の新株発行について検討をし、論稿を発表した。これにより、上場会社をめぐるペイアウトとしての自己株式の経済的意義・法的規律の在り方について気づきを得ることができた。 ②においては、第1に、会社法の問題として、株主意思の確認の場である株主総会をめぐる諸問題を検討した。これは、自己株式取得が株主へのペイアウト手段であるが、どこまで株主の意思が反映されるかを検証するための作業として行った。また、第2に、金商法の問題として、役員報酬に関する金商法上の諸問題も取り扱った。これは、役員報酬は、自己株式取得と比較すると、会社財産が社外に流出するという点で共通しているからである。②については、多くの研究業績を重ねることができた。 以上のように遂行した本研究においては、当初の予定通り研究期間の終盤にアウトプット作業に注力し、多くの論稿(書籍も含む)を発表することができた。とりわけ、本研究の終盤辺りから、市場から上場会社に対する資本効率のより一層の向上が求められるようになったことから、このような社会・経済的な背景も織り込んで研究を遂行した。本研究においては、序盤が新型コロナウイルスの関係により研究活動に制約があったため、成果の発信のペースもそれほど早くはなかったが、全体的には充実した研究成果を残すことができた。
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