本研究では地理的表示制度につき、以下のような論点につき調査、研究を行った。●アジア諸国などにおける「工芸品」の地理的表示保護・登録の現状。●EUとアジア主要国(特に、インド)において頓挫した地理的表示の相互承認・保護交渉の詳細。●「結びつき」についての、欧州における論争の状況。●以上の研究から得られる我が国への示唆と、八丁味噌地理的表示事件の分析。 以上につき、特に最終年度に実施した研究により、おおむね以下のような結論が得られている。●アジアの主要国の他、フランス・ポルトガルでは工芸品が地理的表示保護・登録の対象となっており、たとえば、タイでは2020年1月時点で登録地理的表示は計118件で、うち14件が手工芸品(陶磁器、真珠等)である。また、フランスでは種々の石材(ペルピニャンの花崗岩/Granit de Perpignan、ブルターニュの花崗岩/Granit de Bretagne、ブルゴーニュの石/Pierre de Bourgogne等)が地理的表示登録されている。●2007年に実施されたEU・インド間FTA締結交渉において双方の地理的表示制度の保護対象の違いが交渉頓挫の一因となった。●インド等との交渉の失敗を受けて、EUでは地理的表示を改正して、工芸品を保護・登録対象とする機運が盛り上がっており、そのための法改正案が欧州議会に上程されている。こうした法改正は現状のEUにおける法理論や解釈論に整合すると考えられている。●今後日本が、他国と相互保護を進めようとするときに、手工芸品等を保護対象としていないことが障害の1つになるかもしれないが、当面は加工食品の登録に親和的な法運用を模索すべきであると考える。●日本における八丁味噌の地理的表示登録は、社会的評価の認定により結び付きを肯定するというEUにおける基本的な考え方に沿うものであると考える。
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