研究課題/領域番号 |
20K01416
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畑中 綾子 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 客員研究員 (10436503)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 医療的ケア児 / 法的制度的課題 / 家族 / 学校 / 在宅ケア / 医療的ケア児支援法 / 行政による支援 |
研究実績の概要 |
医療的ケア児の家族の語りとして、2023年1月までかけて医療的ケア児を育てている親42名の声を集めた。この語りを文字起こしし、トピックごとに分けて分析し、わかりやすい形で分類し、さらに専門家による修正も行った。 その過程で、国会等の立法措置の問題、行政の政策課題、各自治体の担当者等の運用、解釈の問題などについて検討した。研究期間中には、2020年6月に医療的ケア児支援法が成立するなど、社会的には注目される動きも起こったが、それが実際の個別の家族が実感できる形となっているかといえば、そうではないことも理解された。 その背景として医療的ケア児といっても、障害のレベルはもちろん、肢体不自由の場合、知的障害を伴う場合、肢体や知的の障害はなく、たんの吸引などの医療的ケアのという場合もある。インタビューでは、個別性の高い事例でかつ、社会的には少数者であることで、支援の制度が不足していることに加え、担当者ごとに理解にばらつきがあることが指摘された。また、教育現場における安全重視の傾向から送迎バスに乗れない問題や、通学手段として介護タクシーへの補助が出ている自治体が出てきているものの、その介護タクシーの事業者や付添の訪問看護師の確保は個々の親に任されており、実態としてまったく利用できていないという問題も理解できた。 2021年6月に医療的ケア児支援法が成立するとの立法措置がなされ、予算も確保できているのに、医療的ケア児をとりまく状況はそれほど変わっていない。制度と資源に関する情報提供をセットにしていく必要や、行政担当者による理解のばらつきなどについても指摘された。情報整備や、支援者教育の必要なども次の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
医療的ケア児とその家族という、感染症への気遣いが必要な方をインタビュー対象とするため、コロナ禍での対面インタビューからオンラインインタビューへと研究計画を変更する際に時間がかかり、また、ZOOM等のオンラインツールへの移行にも時間がかかったが、現在は、2023年1月にインタビューはすべて終了した。大急ぎで分析作業に移り、分析作業自体は、当初の予定よりもかなり早くに負えることができた。 その一方で、この内容を法的制度的な課題に結び付けるためのコミュニティづくりについては、やや遅れている。今年度は、政策提言につなげるための論文作成、学会やイベント等での社会実践を行うための教材づくりを行い、法的制度的な課題提言と、その変革に向けた活動を行いたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
医療的ケア児とその家族の生活を知り、そこから現在の日本の抱える法的制度的な課題に結び付けるためことを目的とした研究であることから、インタビューをしただけでは終わりではない。その後のコミュニティづくりや、実態を知ってもらい、さらに運用の変革などを求めていくことが本研究の課題である。 そこで今年度は、政策提言につなげるための論文作成、学会やイベント等での社会実践を行うための教材づくりを行い、法的制度的な課題提言と、その変革に向けた活動を行いたい。海外では、語りを使った教育的な活用や教材づくり、映画や音楽などのアートと融合した社会理解の促進などの活動があり、興味深い。これらの活動を日本で実践していくことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
医療的ケア児の家族の語りというインタビュー形式で、社会における問題点を収集する活動であったため、コロナ禍において感染対策が必要なことや、インタビュイー自身が感染したりして、大幅にインタビュースケジュールが遅れた。最初の2年でインタビューは終了し、3年目には法的制度的課題の検討を行い、イベント等も行う予定であったが、実施できなかった。しかし、インタビューは2023年1月で終了し、2023年度では法的制度的課題の分析を行うとともに、語りデータベースの公開イベントの実施、ロールプレイなどによる行政や教育関係者向けの政策提言ワークショップなどを実施する予定である。 また、政策提言や教育的活動を実施している海外の事例として、国際連携も進めていくことを予定している。
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