研究課題/領域番号 |
20K01419
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
傘谷 祐之 名古屋大学, 法学研究科, 特任講師 (70843704)
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研究分担者 |
玉垣 正一郎 名古屋大学, 法学研究科, 学術研究員 (30814074)
レイン 幸代 名古屋大学, 法学研究科, 学術研究員 (80791003)
宮島 良子 名古屋経済大学, 経営学部, 准教授 (90534404)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 法学教育 / 日本語教育 / 留学生 / 開発途上国 / カンボジア |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、開発途上国出身の留学生が、法学の基礎的な考え方、いわゆる「法的リテラシー」「リーガル・マインド」等と呼ばれるものを「自分で学び取る」ことを可能にする教育方法を開発することである。 初年度(2020年度)には、日本とカンボジアそれぞれの国における法学教育について文献調査・インタビュー調査等を行い、それぞれの国の法学教育の現状と課題について知見を得た。その成果を踏まえ、2021年度には、「法的リテラシー」等にとって重要な要素である「論理的である」(あるいは「説得力がある」)ということの解明に焦点を当てた。具体的には、渡邉雅子『「論理的思考」の社会的構築』(岩波書店、2021年)による「論理的であるとは、『読み手にとって必要な部分が読み手の期待する順番に並んでいることから生まれる感覚である』」という指摘を参照し、カンボジアの学生にとって論理的である文章と、日本で論理的だと考えられている文章とは異なるのではないか、という仮説を立てた。そして、その仮説を検証するため、カンボジアの学生にとって論理的である文章とはどのような文章かを作文調査によって明らかにすること、および、カンボジアの学生が中等教育においてどのような文章を書くように教育されているのかを中等教育の教科書等を手がかりとして明らかにすることを試みた。また、これまでの研究成果の一部をとりまとめ、宮島良子・レイン幸代・金村マミ「法学講師と日本語講師の連携の振り返り:SCAT分析から見えてきたこと」『専門日本語教育研究』第23号(2021年12月)35-42頁、として公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度には、(1)初年度(2020年度)に指摘した問題点をより具体化・明確化し、(2)その問題点を日本語での教育により克服する教育方法を検討する予定であった。しかし、2020年秋以降に日本とカンボジアとの双方において新型コロナウイルスに伴う状況が悪化し、カンボジアでは大学が閉鎖され、全ての授業はオンラインにより行われることとなった。この状況が2021年度も改善しなかったため、(1)の核心となる仮説を検証する作文調査を実施することができなかった。 研究代表者らは、2021年4月以降、月に1-2回、オンラインでの会合を開催し、研究代表者・分担者間およびカンボジア側の研究協力者での打ち合わせを行った。その打ち合わせで話し合った内容をもとに、カンボジアの大学生の作文の書き方(構成の仕方、主張の根拠の示し方等)に関する調査を実施することを計画した。この調査は、可能であれば対面で、新型コロナウイルスに伴う状況により対面が不可能であればオンラインで実施すべく、準備した。しかし、2021年8月に予備調査を実施してみたところ、オンラインによる調査ではカンニングを事前に抑止できないこと、作文の書き方を観察するという性質上オープンブック形式には馴染まないこと等の理由で、オンラインによる調査には限界があるとの結論に至った。そのため、作文調査(本調査)はカンボジアでの大学の閉鎖が解除され、対面での調査が実施できるようになるまで延期することとした。 代わって、カンボジアの学生たちが中等教育においてどのような文章を書くように指導されているかを明らかにするため、カンボジア側の研究協力者に依頼し、中等教育の教科書(国語)の一部や、高校卒業認定試験「議論的な作文」の採点基準等の資料を収集し、その一部を日本語に翻訳した。その内容については、現在、整理・分析中である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度には、新型コロナウイルスに伴う状況の悪化によりカンボジアの大学が閉鎖されるなど、研究の遂行に困難があった。その後、2021年度秋以降、カンボジアの状況は次第に改善しつつある。大学での対面授業は、2021年10月に少人数での授業のみ再開され、2022年5月には多人数での授業も含めて全面的に対面での授業が再開されるに至った。そこで、2021年度に実施できなかった作文調査(本調査)を2022年度前半に実施すべく、カンボジア側の研究協力者と協力して準備を進めている。合わせて、再び状況が悪化し、作文調査の実施が不可能になる事態を想定し、中等教育の教科書や高校卒業認定試験の採点基準等の資料を用いてカンボジアの学生にとって論理的である文章とはどのような文章かを明らかにする作業も並行して行う予定である。 これらの作業により、カンボジアの学生にとって論理的である文章と、日本で論理的だと考えられている文章との異同を明らかにした上で、2022年度後半には、カンボジアの学生が、「文章の読み手は誰か」ということを意識し、書き手ではなく読み手にとって「論理的である」「説得力がある」と感じられる文章を書くことができるようになる指導法を検討する。日本の法学教育・法教育における方法論の中から、この目的に適した方法論を精選する。その方法論を、必要に応じて、カンボジアの法学教育の現状や課題を踏まえ、さらに日本語教育学の知見を参照して、カンボジアの学生にも応用可能なように修正する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度当初の計画では、新型コロナウイルスに伴う状況がワクチンの接種等により改善され、現地への渡航が可能となった場合は、助成金を旅費および人件費の一部(日本語・カンボジア語の通訳に対する謝金を想定)として使用する予定であった。しかし、2021年度も引き続き現地への渡航が不可能であり、さらに、カンボジアの大学が閉鎖されたために、現地調査が困難となった。そのため、その旅費および人件費の一部が未使用となった。ただし、そのような場合に備え、調査・資料収集をオンラインにより、あるいは現地の研究協力者らを通じて実施することにしていたため、助成金のうち旅費および人件費として使用する予定であった部分の一部は、オンランインによる調査のための研究環境の整備や、研究代表者・分担者に代わって現地での調査を行う研究協力者への謝金(特に、カンボジア語の教科書等を日本語に翻訳した際の謝金)として使用した。 2022年度には、現地の状況が改善されることが期待できるため、助成金は、2021年度および2022年度に実施を計画していた調査のための旅費および人件費等に使用する。しかし、それが不可能な場合には、引き続き、研究代表者・分担者に代わって現地での調査を行う研究協力者への謝金として使用したい。
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