研究課題/領域番号 |
20K01420
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
小門 穂 神戸薬科大学, 薬学部, 准教授 (20706650)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フランス生命倫理法 / 生殖医療 / 出自を知る権利 / トランスジェンダーと生殖医療 / 性的少数者と生殖医療 |
研究実績の概要 |
生殖医療の法的制度に関する世界の動向として、生殖医療の受容に際して生殖医療の制度が整備され、その後の社会の変化に合わせて、制度の修正が求められている。 本研究では、生殖医療の発展やセクシュアルマイノリティーに関する社会制度の変化が「法的な親」をどのように変えるのか、フランスの状況を中心に、また、日本の状況も比較対象として合わせて分析している。フランスでは、生殖医療の発展と普及や、セクシュアルマイノリティーの家族形成の容認という社会の変化を背景として、法的な親、法的な母親・父親の意味するところが変容しつつある。本研究の目的は、最新の法改正等の動向において、法的な父親・母親がどのように変容しているのか、また、その変容の背景には当事者の親になろうという意思の尊重があると明らかにすることである。この目的のために、同性カップルが親となる場合の親の定義に関する議論の精査と、トランスジェンダーが親となる場合の親の定義に関する議論の精査を続けている。2022年度も継続して、フランス生命倫理法の改正審議における議論の調査に加えて、出自を知る権利の制度設計についての調査に注力した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度も、フランス生命倫理法改正を中心に、生殖医療の利用者要件拡大や、拡大に伴う親子関係制度の変化に関する議論の整理を継続した。また、生命倫理法改正によって、従来は匿名で実施されていた第三者からの提供について、生まれた人は成人後に提供者の情報を取得できるようになるという大きな方針転換が行われたため、方針転換の理由や詳細な制度設計について文献調査を行った。2021年改正において出自を知る権利が容認された背景には、生殖医療の利用者を女性カップルや独身の女性というドナーの関与を隠しきれない人たちに拡大することや、欧州各国が提供の匿名を解除する傾向にあること、遺伝子検査の普及が挙げられる。今回の法改正における、出自を知る権利に関する制度設計の重要な点として、これから生まれてくる人の権利保障だけではなく、提供が匿名で行われていた時期に提供を伴う生殖医療で生まれてきた人の提供者情報についても検討が重ねられ、提供者が同意する場合には提供者情報を取得できるしくみを構築したことがある。匿名で実施された提供により生まれてきた人たちの、提供者情報の開示を求める運動は、今回の法改正に影響を与えたと見ることができ、すでに生まれている人たちは今後生まれてくる人の権利の保障に大きく貢献したと言える。匿名の提供で生まれてきた人たちを取りこぼさない制度をいかに構築するのか、という点から重要な議論である。これらについては、書籍の章としてまとめた。年度内の書籍の第2版刊行にあわせて、法改正に伴う執行政令の内容について整理し、加筆した。2021年の生命倫理法改正で独身女性も生殖医療を利用できるようになったが、この経緯については文献調査に着手したが、成果の報告に至っていない。そのため、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度も引き続きフランスにおける生殖医療の利用者拡大、出自を知る権利の制度設計、およびトランスジェンダーが親となる場合の親の定義に関する議論の整理を継続して行う予定である。2022年中に十分実施できなかったこととして、2023年度は、2021年のフランス生命倫理法改正において、独身女性も、生殖医療の利用者として認められたことについての経緯も検討する。2021年の法改正では女性の同性カップルも生殖医療の利用が容認されたが、同性カップルの生殖医療へのアクセスについてはこれまで、生殖医療を利用できる異性カップルとのカップルとしての平等や、子育てに複数の親が関わることの重要性という観点から論じられることが多かった。独身女性の生殖医療の利用については、女性同性カップルに関する議論とは別の道筋で容認されたと見られるが、詳しい分析がなされていないため、議会の審議資料を中心とする文献調査を行う。さらに、男性カップルや独身男性と生殖医療の利用に関する議論についても調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度も、新型コロナ感染症への対応の一環としてフランスへの出張が認められず、国際学会への現地参加やフランス調査ができなかったため、旅費を使用できず、次年度使用が生じている。2023年度中に海外調査に行けるよう準備を継続する。
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