研究課題/領域番号 |
20K01424
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研究機関 | 昭和女子大学 |
研究代表者 |
森本 直子 昭和女子大学, 全学共通教育センター, 准教授 (40350425)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 言語マイノリティ / 言語支援 / 多言語対応 / グローバル化 |
研究実績の概要 |
言語マイノリティの医療保障をどのように法的に構成するかを検討するために、医療と同様に公的サービスとしての側面をもつ選挙に注目し、言語マイノリティ市民の投票保障に必要な言語支援を規定する米国の連邦制定法の投票権法(Voting Rights Act)の取り組みについて文献研究を行い、論考にまとめた。 投票権は民主主義社会の根幹にかかわる基本的な権利であり、米国では黒人に対する投票差別の解消が古くからの重大な課題となっている。その陰で続くもう一つのマイノリティ問題として、英語の不自由な市民に対する投票保障がある。こうした市民は人口が増加する傾向にあり、その潜在的な社会的政治的影響力は小さくない。しかし、現実には投票の案内通知や投票用紙の記載事項が読めず、投票することが困難な状況に置かれている。 1965年成立の投票権法は、投票における黒人差別を是正するための連邦制定法として知られるが、同時に、政治過程から排除される言語マイノリティの苦境改善にも取り組んできた。特に、1975年の改正によって導入されたバイリンガル投票の義務化は、選挙資料の多言語化や投票所での通訳支援を、五年毎の国勢調査での使用言語の状況に照らしてニーズある地域に提供する、効果的かつ効率的なスキームとして評価できる。他方、同法は対象となる言語マイノリティを、当初からアメリカン・インディアン、アジア系、アラスカ先住民、スペイン系の4グループに限定してきた。この点については、「現在のニーズ」に照らして再考の余地があるものと考えられる。移民をめぐる政治的な見解の対立がある中、多様性尊重を体現する投票権法の言語支援規定の今後の展開が注目される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の影響により、2022年度も引き続き海外での調査・医療機関を対象とする国内外での調査は実施できず、周辺領域に関する文献研究にとどまらざるを得なかったため。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度後半から医療分野でのリサーチを再開し、現在は公衆衛生分野、特に予防接種をめぐる言語マイノリティ支援に関するリサーチに着手している。医療における言語マイノリティに対する言語支援は、当該個人の健康に資する上で欠かせないものであることは言うまでもないが、とりわけ公衆衛生領域においては、社会・集団の健康にもかかわる点で一層重要となる。その一例として、予防接種に注目し、言語マイノリティ住民に対して予防接種情報が十分に伝わるための言語支援の取り組みに注目することで、医療における言語支援の重要性を補強することができるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、これまでの三年間は海外調査が全く実施できなかったため、次年度使用額が生じている。今年度は感染の状況が世界的にも落ち着いたため、夏季に渡航して調査を実施することで旅費を執行する計画である。
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