研究実績の概要 |
研究3年目は,これまでの比較憲法の知見を基に日本における忘却の利益について検討を行った。とりわけ研究3年目に新たな最高裁判決が示されたため,平成29年最高裁決定(Google検索結果削除請求事件)と令和4年最高裁判決(Twitter投稿記事削除請求事件)との比較検討を行った。具体的には,平成29年Google決定における比較衡量の枠組みの「明らか」要件の意味を捉えることに注力した。「明らか」要件について,検索事業者が有する情報流通の基盤及び表現行為としての側面から導出されたものと解する立場のほか,差止要件,削除請求固有の要件,または立証要件など様々な見解があることを確認し,「明らか」要件の多義性を明らかにしてきた。そのうえで,令和4年判決はインターネットにおける表現の自由とプライバシーの法的利益との基本的判断枠組みを示しており,判決で示された比較衡量の判断要素を丁寧に個々の事案において検討することの重要性を確認してきた。 また,ブリュッセル自由大学クリストファー・クナー教授を招聘しワークショップを開催するなどこれまでの成果の取りまとめを行った。併せて,個人データの正確性と削除権との観点からEU司法裁判所の新たな判決(C-460/20, Google, ECLI:EU:C:2022:962)についても検討を行った。 児童のプライバシー保護の観点からも忘却の利益の考察を行い,イギリス情報コミッショナーの'Age Appropriate Design Code'やTikTokに対する制裁事例等,及び関連する論文の読解を行った。
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