【2023年度研究】 2023年度においては、神聖ローマ帝国崩壊後のドイツ行政訴訟制度について研究を行った。すなわち、まずパウロ教会憲法(=フランクフルト憲法)において、行政機関による行政紛争の解決(いわゆる行政司法)が明確に否定されたことに着目して研究を行った。このパウロ教会憲法を契機にして、本研究課題の主目的であるベール=グナイスト論争が生じることになるが、この論争についても研究を行った。そして、オットー・ベールは通常裁判所による行政紛争の処理を提唱したのに対して、ルドルフ・フォン・グナイストは行政裁判所によって行政紛争の処理を提唱するといった、すでに多くの行政法学者が明らかにしてきた事実の確認も行った。ここでの議論が、行政訴訟を主観的権利の保護を基調とするか、それとも行政の違法性一般までをも審査するのかに結実し、今日のドイツ行政訴訟制度における原告適格論の形成に関連していることの確認も行った。これらの研究・調査・確認によって、2023年度においては、ドイツの原告適格論の克服のために登場した環境法上の団体訴訟論は、単に偶発的なものではなく、歴史的沿革の上にも置くことができることを確信した。これらをまとめるべく、現在、研究を続けつつ、論文執筆の準備を行っている。その他、2023年度は、付近住民の原告適格が問題となった納骨堂の経営許可に関する判例評釈を行った。 【研究期間全体の成果】 本研究課題は、近年わが国で導入が議論されている環境法上の団体訴訟について、現在の議論から一歩離れて、それが必要とされた背景の歴史的沿革を踏まえて、研究するものであった。これによって、ドイツ行政上の権利保護の歴史的展開を再検討することによって、環境法上の団体訴訟の制度設計論の基礎的研究へと架橋した。
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