研究課題/領域番号 |
20K01429
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
加藤 暁子 日本大学, 法学部, 准教授 (40438750)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 医薬品アクセス / COVID-19 / コロナウイルス / 医療製品 / 知的財産プール / COVAX / ACTアクセレレータ |
研究実績の概要 |
令和2年度は、COVID-19の流行拡大という急性的かつ緊急事態の典型が生じたことから、これに対する国際保健行政及び各国・地域の対応を中心として情報や学説を収集、検討した。国際保健行政に関してはWHOを中心とするACTアクセレレータの設立とその一部門であるCOVAXファシリティーによるワクチンの国際的な調達及び配分、各国・地域の対応では知的財産を権利保有者に許諾を得ずに利用可能とする強制実施権や政府による利用をCOVID-19への対応に限り法的に措置する事例を検討した。その結果、1990年代以降に進められてきた医薬品アクセス改善の取り組みにおける蓄積を活用し、さらに発展させていること、また、国家や国際機関に加えて民間の多様な主体も協働するグローバル・ガバナンスの様相を呈している近年の国際保健行政の特徴が今回も明確に顕れていると確認した。以上を、製薬企業の医薬品アクセスに関するパフォーマンスに影響を与えているNPO等、グローバル・ガバナンスを構成する主体の活動に関して2019年11月にドイツのワークショップで行った共同研究の成果発表に追加して、英文ジャーナルに投稿している。 COVID-19への対応をめぐってはまた、従来の、医薬品アクセスの確保に困難を抱える 途上国における特定疾病に宛てた医療製品へのアクセスと異なり、全世界対象の医薬品アクセスが問題となっている。ここから、自国民に医薬品アクセスを保障する各国の義務の発現としての医療製品に関するナショナリズムと、そうした自国中心主義に則ってもなお他国のアクセスを改善しない限り自国の義務が果たせないというインターナショナリズムとの適切な融合が課題となっており、COVID-19への対応に要する医療製品に関わる知的財産の扱いもこれとの関わりで検討する必要がある、という認識を得た。以上の研究成果について次年度の公表を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は、COVID-19の流行という急性的な、緊急事態への対応に集中して情報収集と検討を行ったこと、また、この事態にあって、従来問題とされてきた疾病等に関する国際保健行政及び各国・地域の慢性的な医薬品アクセス問題の改善に関わる取り組み、及び、それと知的財産との関係性に関する情報が限られたことから、日本を始め世界的にも企業による自発的な知的財産プールの形成を通じた共有と活用の事例等の貴重な検討対象が浮上する一方、本研究で急性的と並んで検討を構想した慢性的な医薬品アクセス問題に関する検討が進まなかった。しかし、WHO等の国際フォーラム、及び、学説においても、COVID-19への対応と並んで、これが従来の医薬品アクセス問題にどのような影響を与えていくかについても十分留意されるべきであるという、しごく的確な指摘が見られるとも認識している。本研究においても重要な論点として意識的に取り上げていきたく考えている。 テーマに関係する国際的なフォーラムへの参加、アジア諸国及び米州における議論の把握も、海外出張等を通じての直接的な情報収集は困難な状況が続いているため、オンラインでの各種企画への参加や文献、情報の収集を積極的に進める。
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今後の研究の推進方策 |
前項に示したように、COVID-19への対応の推移に応じて検討を行うと共に、そうした急性的と並んで、慢性的な医薬品アクセス問題という区分を引き続き意識しながら情報の収集、フォーラムへの参加に努める。 さらに、従来の医薬品アクセス問題への取り組み、及び、COVID-19への対応の双方に関して、特徴的とみられる国家・地域を事例に設定して、地域的な属性から来る公衆衛生上のニーズの違いと、それに応じた知的財産保護制度の特徴を、オンラインを通じた口頭、或いは、文書によるインタビューの実施を含めて検討する。 また、研究上のアプローチの妥当性を検証する上で、これまでの研究成果について国内外に発信する機会を設けてフィードバックを得る、前述の共同研究を通じて接点を有している欧州の研究組織との関係形成を追求する等を試みて、次年度以降の実地でのインタビュー等の実施に向けても準備したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述したように、COVID-19の流行により、当初予定していた国内外へ出張してのフォーラム参加を通じた情報収集や文献収集の実施が困難であったために、次年度使用が生じた。 今後、順次公表されていくと思われるCOVID-19への対応を検討した文献、資料の収集と検討、また、次年度以降に、欧州に加えて、研究者がこれまで十分にアクセスできていないアジア諸国及び米州におけるものを含めて、実地でのフォーラム参加や、インタビュー等の実施費用に振り当てる。
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