研究課題/領域番号 |
20K01431
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石田 京子 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授 (10453987)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 法曹倫理 / 専門職責任 / 誠実義務 / 利益相反 / 守秘義務 / 法専門職 |
研究実績の概要 |
本研究は、弁護士を中心とする法律専門職の第三者に対する誠実義務―特に相手方を含む第三者への配慮義務―の理論的根拠について、検討を行うものである。令和2年度は、2つの視点から、主に文献調査を行った。一つ目は、国内の弁護士、司法書士、社会保険労務士についての懲戒事例・裁判事例を検討することである。二つ目は、欧米の弁護士に関する事例の検討である。後者については、アメリカの弁護士倫理の標準規則であるABA模範規則と、EUの弁護士倫理の標準規則であるCCBE基準を参照した。 国内の検討については、弁護士倫理の懲戒事例を集積してデータベース化を続けている。加えて、前年度までの科研研究課題の検討と合わせて、弁護士倫理の現代的課題をテーマとした共編の出版(高中正彦・石田京子『新時代の弁護士倫理』(有斐閣・2020)がかなった。海外の弁護士倫理についても、昨年度3月に論文(石田京子「日本における弁護士倫理の今日的課題」法の支配200号)を公表することができた。さらには、「利益相反回避手段としての情報遮断措置の位置づけーアメリカにおける議論の変遷を参考に―」(『民事裁判の法理と実践-加藤新太郎先生古稀記念論文集』(2020年)を公表し、実務で現在問題となっている、事務所の移動と利益相反の規律の在り方について、比較法的検討をした論文を公表した。 さらに、日本司法書士会、東京社会保険労務士会の依頼を受けて研修講師を行い、その過程で、司法書士、社会保険労務士の誠実義務についても検討し、具体的事例について実務家から意見を聞く機会を得た。 概ね研究の進捗状況は順調である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の影響により、当初予定していたような形での国際会議での学会報告ができていないこと以外は、顕著な遅れはない。当初の予定では、「個々の資格を超えて法専門職が「場面」として、依頼者に対する誠実義務と、社会・第三者に対する誠実義務が対立しうる事例を収集する」ことを予定していたが、現状、まだ個々の資格(弁護士の事例、司法書士の事例など)についての検討にとどまっている部分もあり、これは今年度さらに検討を進めていく。 一方、欧州の弁護士倫理の検討については、英米法系では判例法理がとられていることもあり、事例と規律(ルール)がセットで発展している。このことを受けて、当初の予定では、令和2年度は事例研究、令和3年度は規則についての研究を予定していたが、実質事例研究と規則研究を同時に進めている。想定通り、アメリカの規律と、EUにおける規律は相互に関連して発展していっていることが確認された。 学会報告については、国内でのオンライン学会での報告に留まるものの、「ADRにおける代理人の職務上の倫理について」(仲裁ADR法学会、2020年7月11日)や、「若手弁護士は法曹養成課程をどう評価するのか?」(日本法社会学会、2020年8月1日)において、国内における法曹倫理の課題について報告を行った。当初予定していたアジア法社会学会等国際学会での報告は、コロナ禍で学会自体が延期となってしまい実現できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
既に述べた通り、日本国内の法律専門家について、相手方を含む第三者に対する規律は乏しい。そこで、アメリカ、英国、ドイツ、EU(CCBE規程)について、どのような規定が存在するのか、また現在の規定がどのような議論を経てそのように制定されたかを検討する。必要に応じて、担当者へのメール照会や、可能であれば聞き取り調査を行う。申請者は既に、アメリカ法律家協会、ワシントン州弁護士会、カリフォルニア州弁護士会、英国ロー・ソサイエティ関係者、CCBE規程の評議会委員でドイツ連邦弁護士会役員経験者とのつながりがあり、これらのネットワークを利用して情報収集に努める。(ヨコの軸のさらなる検討) 加えて、前年度の研究成果について、日本語・英語での論文化を進める。また、それまでの成果について、アジア法社会学会、世界法曹倫理学会、東アジア法曹倫理会議等、国際会議での報告を行う。 さらに、国際会議(オンラインを含む)には積極的に申し込み、海外の研究者と意見交換する機会を可能な限り増やすことを心がける。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で予定していた出張ができなかった。 今年も海外への出張は難しそうであるが、この分を論文校閲費用等として使用することにより、研究成果の英語での発信により力を入れる予定である。
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