本研究は、日本における法曹倫理理論の確立に向け、特に弁護士の第三者に対する誠実義務に焦点を当てた発展研究である。令和5(2023)年度は、2022年度までの考察を踏まえて、弁護士を中心とする法律専門職の第三者および社会に対する誠実義務の理論的根拠についてさらなる発信を行うことを予定していたが、国際的な学術会議で3本の論文報告を行い、計7本の論文公表、1冊の共編書籍の公表を行った。 まず、コーネル大学で開催された“Gender Equality in the Legal Profession in East Asia: Empirical Perspectives”と題したシンポジウム(2023年4月開催)では、弁護士コミュニティにおけるジェンダー格差の問題がなぜ「公的問題」であるのかを、弁護士の公益性(すなわち第三者や社会に対して負っている誠実義務)の視点から論じた。さらに、マレーシアのサンウェイ大学で開催されたアジア法社会学会(2023年12月)では、技術を用いた法的サービスの展開が現状の弁護士の規律に与えている影響について報告した。また、早稲田大学で行われた国際法曹倫理シンポジウム(2024年3月)では、技術革新に伴う弁護士倫理の新たな課題について、どのような規律が必要か、弁護士および弁護士会の公的責任の視点から論じた。 さらには、2023年9月には、2021年に実施した民事訴訟利用者調査について、『手続利用者から見た民事訴訟の実際』(2023年商事法務)を編者の一人として公表した。いずれの研究活動も弁護士の公的責任について社会とのかかわりから考察したものである。また、前年度課題としていた英文での論文公表については、既に脱稿済みであり、2024年7月にコーネル大学の法学雑誌(Cornell International Law Journal)から公表予定である。
|