研究課題/領域番号 |
20K01437
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
泉 克幸 関西大学, 総合情報学部, 教授 (00232356)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 知的財産権 / 独占禁止法 / 権利濫用 |
研究実績の概要 |
1 概要…知的財産権には「市場独占」という弊害を必然的に伴う。市場独占という弊害の除去には競争政策的観点の導入が有効かつ重要であると理解されている。本研究は、市場独占の弊害の対応策として権利濫用法理に着目し、その要件や基準を、競争政策の観点から明確に提示することを目的に実施するものである。本年度も当初の研究計画調書に従い、知的財産権侵害訴訟のうち、権利濫用と競争政策に関する事例、および知的財産に関する独禁法違反の事例(公取委の相談事例なども含む)や海外競争当局の動きについて資料の収集を行うと共に、その整理と分析を継続した。 2 具体的成果…今年度、研究成果として公表した主たる論稿とその内容・意義は次のとおりである。 (1)「プログラムにおける相互運用性の意義と著作権の保護範囲」中央ロー・ジャーナル18巻4号3頁:本稿はGoogle対Oracle事件米国最高裁判決(2021年4月5日)を素材に、コンピュータプログラムの著作権法上の保護範囲について、相互運用性(interoperability)に着目して分析・検討したものである。検討部分において、著作権独占の適切な範囲の画定には、権利濫用論の適用を考慮することの可能性・有益性について指摘した。 (2)「欧米におけるスタートアップの反競争的買収に対する規律の現況」公正取引848号25頁:本稿は、一般に“キラーアクイジション”と呼ばれるスタートアップの反競争的買収に対し、欧米の競争当局がどのような規律を行っているかについて、その概要と意義を紹介・検討するものである。スタートアップは優れた知的財産を有していることが多く、そうしたスタートアップの買収が競争政策の観点から問題になり得る。また、キラーアクイジションによって獲得した知的財産権の行使は、場合によっては競争法違反あるいは権利濫用の観点から認められない可能性があるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、本年度は、①公取委の相談事例も含め独禁法違反の事例のうち、知的財産権が関連したものを網羅的に取り上げ、整理、分析する、②欧米の大学や競争当局などに赴き、ヒアリングや意見交換を行う、③実務家も多く参加している知財判例研究会や独禁法研究会等に積極的に出席し、必要となる情報の収集・理解に努める、ことを予定していた。 このうち①については、学内のデータベースを利用するなどして、ある程度の進捗がみられたところである。他方で②については、新型ウィルスの感染拡大が依然として収束しないため、海外出張がほぼ不可能な状態となった。③については、ほとんどの研究会やシンポジウム、学会等がZoomなどを利用したリモートの形式での開催となった。リモート形式の場合、その性格上、報告者による報告という一方通行になりがちであり、僅かに行われる質疑応答も極めて不十分にならざるを得ない。 以上が、本年度、本研究が「やや遅れている」となった理由である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画によれば、令和4年度は、過去2年にわたって行った知的財産権侵害訴訟の事例と知的財産が関連した独禁法違反の事例の各分析結果を踏まえ、権利濫用が認められるにはいかなる主張を行うことが重要であるか、各要素の軽重やポイントなどについて明らかにする予定であった。しかしながら、前述したとおり進捗状況がやや遅れていることもあり、次年度の出来るだけ早い時期に不十分であった部分の検討を行う。特に、リサイクル事業者に対する特許権の行使が権利濫用あるいは取引妨害(不公正な取引方法・一般指定14項)に該当するとの判断を示した東京地判令和2年7月22日(平成29年(ワ)40337号)の評釈が複数公表され、それらを参考に具体的成果を公表する。また、「知的財産ガイドライン」(公取委、2016年最終改正)に示された考え方について、権利濫用法理との関係で再検討することも予定している。 加えて、研究会への参加を継続するとともに、状況をみて可能であれば海外出張を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は953,973円の次年度使用額が生じた。これは、新型コロナウィルス拡大に伴い、予定していた国外出張および国内出張が、ほぼ不可能となったことに起因している。 令和4年度は幸いなことに、そうした状況が改善されつつあり、国内出張を中心に、後半には海外出張を計画したいと考えている。また、洋書、洋雑誌の購入も継続する予定である。
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