研究課題/領域番号 |
20K01448
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
福井 秀樹 愛媛大学, 法文学部, 教授 (00304642)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 非実験的推定手法 / マッチング / 政策効果推定 / EBPM / モンテカルロ・シミュレーション |
研究実績の概要 |
2021年度は、モンテカルロ・シミュレーションにより、共変量バランス改善手法による因果効果推定バイアス補正の有効性を検証した。対象は傾向スコアを用いた逆確率重み付け(Inverse probability weighting、 IPW)、傾向スコア・マッチング(Propensity score matching、 PSM)、マハラノビス距離マッチング(Mahalanobis distance matching、 MDM)や粗指標厳密マッチング(Coarsened exact matching、 CEM)である。 シミュレーション結果からは、PSM、MDM、CEMのいずれも、共変量バランス改善に有効であることがわかった。同時にPSM、MDM、CEMのいずれも、共変量バランスの改善は、ある点を超えて進めると推定値バイアスの抑制に寄与しなくなり得ることもわかった。また、未測定交絡因子がない設定では、マッチングによる調整を行わないデータによるOLS推定のパフォーマンスは良好で、IPWやMDMによる推定値バイアスよりもおおむね低く、PSMやCEMのそれと同等であった。しかし、除外変数や未測定交絡因子がある設定では、マッチング後の推定は、マッチングなしのOLSによる推定よりも、推定値バイアスを抑制できる可能性があることもわかった。 今回のシミュレーションからも、「回帰分析において正しい共変量をコントロールすることでセレクション・バイアスをかなりうまく取り除くことが可能である」とするAngrist and Pischke (2008)の主張をおおむね裏付ける結果が得られた。同時に、今回のシミュレーションは、未測定交絡因子や除外変数が存在する可能性をゼロにすることのできない観察データを用いた分析では、マッチングにより推定値バイアスが改善される可能性も示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学会報告および論文公表ができている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度のシミュレーションでは、残念なことに、共変量バランスの改善をどの程度まで図れば推定値バイアスを最小化できるかについては明確な指針を得ることはできなかった。むしろ明らかになったのは、共変量バランス改善が推定値バイアス改善にもたらしうる効果の限界である。事実、今回のシミュレーション分析では、マッチング手法にかかわらず、共変量バランスの改善から得られる因果効果の推定値バイアスの改善はおおむね微々たるものにとどまった。それどころか、いずれのマッチング手法においても、共変量バランスの徹底的な改善を図ることは、因果効果の推定値バイアスの抑制という観点からはむしろ逆効果となったのである。「共変量バランス改善の逆説」と称すべきこの現象が一般的な現象であるかどうか、本稿とは異なるシミュレーション設定(標本生成過程、関数、キャリパー、カットポイント設定等)や異なるバイアス補正手法(最適マッチング、Entropy balancing、 Covariate balancing propensity score等)でも観察されるかどうかは不明であり、一層の検証が必要である。そこで、2022年度は引き続きシミュレーションによる検証を継続する。 シミュレーション分析が順調に進めば、同時に、2021年度は実施できなかった観察データによる因果効果分析も試みる。第1に、複数空港地域内の特定空港の利用を制限するペリメーター規則がMAR内空港を利用する航空会社の輸送パフォーマンスに与えた影響を、日本のデータも用いて推定する予定である。第2に、空港発着枠規制が航空運賃・サービス競争に与える因果効果推定を行う。この観察データを用いた分析の際にも、PSM以外のマッチング手法の有効性も検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の影響により、出張を行えず、予定通り執行できなかった。今後も当初予定している通りの出張が可能になるかどうか定かではないため、その分をシミュレーション環境の改善、データ購入、統計分析ソフトウェアのアップデート等にあてて執行する予定である。
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