研究課題/領域番号 |
20K01460
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
松本 充豊 京都女子大学, 現代社会学部, 教授 (00335415)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 中国の影響力 / 恵台政策 / クライアンテリズム / 台湾 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、中国の習近平政権による「恵台政策」を取り上げ、台湾に対する利益誘導型の影響力行使の効果を分析し、中国による経済的手段を用いた影響力行使の可能性と限界を明らかにすることにある。2020年度の研究実施計画では、習政権による利益誘導の重点対象とされる、台湾社会における基礎コミュニティ(「基層」)の議員(「基層民代」)の事例について調査・分析を予定していた。 しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大により、現地調査の可能性が完全に断たれてしまった。そこでインターネットの活用や国立国会図書館関西館の利用などによる文献調査にほぼ徹することになった。研究成果の具体的内容は、第1に、基層民代にとどまらず、基礎コミュニティ全般に対する取り込み策の調査・分析を行なった。中国が金銭的な誘因を含む様々な手法を活用して、里長・村長など台湾の基礎コミュニティのリーダーや影響力ある人物の取り込みを強力に推進してきたことが明らかになった。第2に、中国の影響力メカニズムの国際比較による研究成果の吸収である。第3に、2020年総統選挙での中国による選挙介入に関する調査報告の収集と成果の吸収である。ここでも基礎コミュニティのリーダーを「代理人」として偽情報の製造・拡散を図ろうとするモデルの存在を見出すことができた。 研究成果の意義として、習政権の恵台政策でも代理人の存在が不可避であることが確認できたことを指摘できる。代理人を削減できても、その排除には成功していない。中台間に事実上の国境が存在するという事実が、中国の影響力行使に対する構造的な制約要因となっていることが改めて認識できた。国際比較の成果からは前政権である胡錦濤政権との比較分析に向けて、新たな視座と多くの示唆を得ることができたこと、情報操作による影響力行使でも恵台政策と同様のメカニズムを確認できたことも非常に重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
国内外での新型コロナウイルスの感染拡大が収束せず、海外への渡航と国内での移動と研究施設の利用ができない、あるいは大幅に制約される事態となった。そのため、夏期・春季休暇に予定した台湾での現地調査が困難となり、現地での文献調査やインタビュー調査が実施できなかった。国内での調査活動も大幅に制約され、本年度の研究活動が実施計画どおりに遂行できなかつた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は国内での文献調査を行うとともに、夏期・春季休暇を利用した台湾での現地調査を予定している。ただし、新型コロナウイルスの感染状況において昨今の情勢が続けば、台湾への渡航がままならず、現地での文献調査やインタビュー調査は困難となる。国内での調査活動も制約される可能性があり、2020年度と同様に研究実施計画どおりの遂行は難しくなる。そこで、文献の購入やインターネットを活用した文献調査を中心とし、とくに台湾メディアの報道からの情報収集に重点におき、各利益誘導モデルの調査・分析にはできる部分から着手し、柔軟に対処する所存である。インタビュー調査はもし実施可能な条件が整えばその段階で関係者への意向確認を実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大により、現地や国内での調査活動が大幅に制約され、研究計画を予定どおり遂行できなかった。そのため、調査活動に充てた旅費がほぼ未使用となった。加えて、本年度の研究計画への取り組みが、他の研究活動や業務との関係で時間的に圧迫されてしまった。翌年度には現地や国内での調査活動の実施を計画(期待)しており、それが実現すれば旅費を中心に計画通りの助成金が使用できると考えている。また本年度に十分実現できなかった書籍購入や研究設備の充実にあてる予定である。
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