研究課題/領域番号 |
20K01462
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
久保 はるか 甲南大学, 全学共通教育センター, 教授 (50403217)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 環境行政 / 行政組織 / 省間調整 / 環境政策統合 / オゾン層保護 / 漁業資源管理 |
研究実績の概要 |
研究論文の執筆を行った。第一に、研究代表者がこれまで行ってきた日本の環境行政についての研究成果に、最近の動向を加えて、英語論文にまとめた。環境庁が設置されて以降の環境行政組織と環境行政の特徴と変化について、所管配分と省間調整に着目して検討したものである。日本の環境法について紹介する共著本の第13章に掲載される予定である。第二に、日本の環境政策法・政策・政治について紹介する共著本で、日本のオゾン層保護政策を取り上げる第12章を執筆した。国際的なオゾン層保護の取組みは、「成功した環境政策」とされているが、日本のオゾン層保護への取組みがどのような特徴を持ち、どのようにして条約・議定書の履行を確保したのか、また日本の独自性はどこにあるのかについて検討する内容となっている。第三に、共著本『環境法の開拓線』の一章分として、論文「漁業資源管理の構造変化:二つの管理手法の相克と合流(仮)」を執筆した。2018年漁業法改正という形で結実した水産改革に至る変化の流れについて、従来の漁業資源管理政策の構造の特徴を示したうえで、政治行政の文脈から論点整理して明らかにしようとするものである。上限が設けられた資源管理の運用実態は、環境政策において重要な論点である。また本事例は、従来の水産庁の行政手法とは異なる政策が、内閣主導のトップダウンでもたらされたものであり、内閣主導の政策プロセスにおける所管省の関与に係る研究でもある。これらは、2023年度以降に公表される予定である。 さらに、環境政策統合に関する文献収集を行った。環境政策統合に関する議論は、環境政策において諸政策への環境配慮の埋め込みという政策的観点から議論されることが多いが、行政府内における調整の問題も含意する。政策統合と行政調整の概念整理に関する一般的議論を参考に、環境政策統合についての研究をさらった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、環境政策を所管する行政組織として環境庁が設立されて以降、地球環境問題、中央省庁再編、福島第一原発事故を主な契機として、組織と権限が拡大されてきた組織資源の変化と省間調整の変化、政策手法の変化について、「研究業績の概要」で述べた通り、英語論文にまとめた。 これまで、拙稿では、日本の環境省の職員が、他省庁との調整・協議プロセスにおいて、今でいう「環境政策統合」の観点から戦略的行動を取ってきたことを指摘してきた。その戦略的行動の具体的な事例を分析するために、環境省が発表した『環境省五十年史』に収録されているオーラルヒストリーと、研究代表者が事務次官経験者に行ったインタビュー調査の記録を分析材料にして、劣位に置かれる環境配慮や将来世代の利益などの価値を政策立案で反映させるための環境省職員の戦略・工夫、組織的戦略について、論点整理を行った。また、環境政策統合と省間調整に関する近年の研究論文を収集し、そこでなされている議論・分析結果と日本の文脈との違いについて、検討した。 しかしながら、今年度、環境省職員と環境団体とのパートナーシップの関係性について、関係性の変化の裏付けとなる調査を行う予定であったが、上記論文執筆作業との関係で、実行するに至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、政策過程において過小代表される環境利益を代弁する行政組織がいかにして成立し、成長しうるのか、行政組織研究と官僚個々人の行動分析研究を通じて明らかにしようとするものである。このような問題設定は、環境問題の解決のために、どのようにしたら諸政策に環境配慮の観点を埋め込むことができるか、その方策に関心を寄せる環境政策統合の議論と問題意識を共有する。そこで、環境庁/環境省における戦略的行動についてのインタビュー調査を計画的に進めることと同時に、その理論的な位置づけを明確にするために、環境政策統合に関する文献調査も進める。 分析において、カギとなるのが、環境政策における所管配分の決定と省間調整のあり方である。日本との比較のため、ドイツ、イギリス、アメリカの環境行政組織の行政府内の位置づけと政策形成プロセスの特徴(所管の配分、省間調整、影響力)について、研究論文・文献資料を収集し、論点整理を行う。アメリカでは、連邦政府の環境行政組織EPAの所管・権限がしばしば法廷で争われる。このような統治機構における調整のあり方の相違を踏まえて、比較分析を行う。 また、本研究では、環境庁から環境省への再編、さらに気候変動対策とエネルギー政策における内閣主導性の高まりを受けて、上記の戦略的行動及び政策過程がどのように変化しているかを明らかにすることも目的の一つである。気候変動対策とエネルギー政策は、国際的な動向や新しい政策理念・アイディアの影響を受けて、急激に進展・変化している。そこで、これらの最新の動向を把握するとともに、その政策立案過程について調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度以前のコロナ禍で旅費の支出計画に変更が生じた分の繰越が、次年度使用額の発生原因となっている。2023年度には、引き続きオンラインでの資料収集・調査に努めながら、現地調査・インタビュー調査に要する旅費を支出予定である。国内においては、環境省職員へのインタビュー調査のための東京出張費、温暖化対策に関する現地調査費を計上する予定である。
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