本研究は、最新の機械学習技術とオンライン実験を活用して、日本本土への空襲による地域社会の破壊が政治や社会に与える長期的な影響を評価し、向社会化仮説を批判的に検証することを目的としました。まず、今年度は先行研究を基にして分析を行い、論文の執筆を目指しました。これに関しては順調に進めることができました。
機械学習を活用した画像解析においては、資料の利用可能性や分析手法の妥当性について、航空写真の量と質は地域によって大きくばらつきがあることが判明しました。この中で利用可能であると判断されたのが東京23区と大阪市のタイル写真であり、論文共著者の協力を得て、これらをプログラミングによって一括でダウンロードし、外部の空襲被害情報マップと重ね合わせることで、これらの地域の包括的な被害状況マップを作成することができました。これらのデータベースは、関連する論文が発表された後に公開される予定です。また、分析手法に関しては、機械学習によって予測された変数の値が入力された観察について、それらが分析上の観察数の増加にほとんど寄与しないことが明らかになり、人的コーディングの有用性が再認識される結果となりました。
一方、オンライン実験においては、論文の共著者と協力して、インターネット調査会社が提供する調査枠組みを活用し、被験者を空間的・時間的に制御し、同時にサーバーへアクセスさせることで、内集団と外集団の条件付けをインターネット実験の中で行うという新たな試みを実施しました。この実験から、空襲によるソーシャルキャピタルの破壊が、新たな住民の地域への適応を遅らせるという結果が得られました。これは、向社会化仮説に対し、ソーシャルキャピタルの破壊がもたらす悪影響が向社会性にマイナスの影響を与える可能性があることを示唆しています。
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