前年度に、東南アジア島嶼部4カ国にタイを加えた比較研究を単著(『競争と秩序-東南アジアにみる民主主義のジレンマ』白水社)として公刊したのにつづき、最終年度では、社会運動型の政治動員が選挙政治において強く観察されるフィリピンに対象を絞った書籍(鈴木有理佳との共著『権威主義的反動と新自由主義-ドゥテルテ政権の6年』アジア経済研究所)を公刊した。そこでは、社会、経済、外交との相互作用を念頭におきながら、2016-2022年に政権を担当したロドリゴ・ドゥテルテ大統領を取り上げ、2016年の大統領選挙、そしてその後の政治的支持の維持のメカニズムを解明した。 研究期間全体を通じ、感染症による影響で現地調査を行うことが困難であったが、アジア経済研究所所有の資料、インターネット上での情報収集、オンラインでの学術交流などにより、必要な情報を収集することができた。これにより明らかになったのは、社会動員型の政治動員が強く現れる際の前提条件として、そもそも政党システムの制度化がどの程度確立されているか、既存の社会の亀裂がどの程度深かったのか、という政治制度と社会構造の二つの前提条件が重要であることが確認された。政党システムの制度化が比較的確立していたマレーシア、シンガポールと比べ、政党システムがそもそも流動的だったフィリピンは最も社会運動型の政治動員が顕著に表出し、それに準じるインドネシアでも同様の政治動員が顕在化した。加えて、大統領制という制度的な条件が、政治指導者のパーソナリティの焦点化にも影響していることも重要であり、この政治のパーソナリゼーションが、情報通信技術の進展とともに、社会運動型政治動員の核になっていることも確認された。以上のような知見をまとめる形で先述の二つの書籍、および学術論文等を研究期間中に発表した。
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