研究課題/領域番号 |
20K01469
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小林 正弥 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (60186773)
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研究分担者 |
石戸 光 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (40400808)
李 想 (李想) 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 准教授 (20722143)
木下 征彦 日本大学, 商学部, 准教授 (10440025)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ウェルビーイング / 価値観変化 / ポジティブ心理学 / 政治心理学 / 正義 / 公正 / 市民性 |
研究実績の概要 |
理論的研究として、ポジティブ政治心理学という概念と主題を世界で初めて提起する二つの英語論文を公表した。まず政治哲学とポジティブ心理学との関係を検討して、学際的協働の枠組みを提示し、国際的反響を得た。次に、この枠組みに基づき2020年5月・2021年3月(本研究の一環)の調査を分析し、正義・公正と市民性、ウェルビーイング(WB)の間の相関関係を明らかにし、コミュニタリアニズムに基づく仮説とこの結果が整合的であることを実証した。2論文はFrontiers in Psychologyで査読を経て公表された。さらに国際学会でも2報告を行った。 また昨年度末に公表した2019年参議院選挙とWBとの関係についての分析結果を踏まえ、今年度に行われた衆議院選挙についてインターネット調査を10月に行った。その際、本研究の主題に即して、セリグマンやプリレルテンスキー、エド・ディーナーのWB指標に加えて、政治的WBの質問項目を開発するとともに、公正・正義、経済・社会状況、さらにイングルハートの価値観調査やハイトの道徳的価値基盤の質問項目も入れた。 まずWBについて検討し、コロナ禍におけるその変化を2020年5月と2021年3月の調査結果と比較検討した。時間の経過とともに、WBが低下していることが明らかになった。もっとも他方で、一部の人びとは逆にWBが上昇しており、二極化が存在した。また価値観に関して、安全を求める人びとが増加している一方で、精神的な豊かさを求める人びとも増えており、この点でも二極化が見出された。 そしてオーズを中心にオンラインの国際セミナーを行い、英語の記録をワーキング・ペーパーとして公表し、研究分担者である石戸が中心的な編者となって、その内容を基礎にする著書が刊行された(2022年4月)。ここには小林・石戸・オーズの論稿が収録されており、上記の分析結果もそこで公表されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的であるポジティブ政治心理学の樹立に関して、Frontiers in Psychologyで査読を経て二本の英語論文が掲載されたので、この新しい学問的主題の重要性が国際的に認知され、実際にポジティブ心理学の研究者たちからこの新分野を開拓してリードする研究として高い評価を得た。 そして政治的アウトプットと関連する経済や正義・公正と心理的ウェルビーイング(WB)の関係を実証的に分析し、これまで明確ではなかった正義・公正とWBが関係していることを明らかにした。これは、本研究計画における「政治的アウトプット(政策)→WB」という理論モデルの実証に関係する。さらに、この実証を通じて、ポジティブ政治心理学からの検討によってコミュニタリアニズムの信憑性が高まるという結果を得た。これは、研究計画で言及したコミュニタリアニズムの政治哲学とポジティブ心理学との関係についての新しい進展であり、当初想定していた以上の新しい成果を得たと言える。 またコロナ問題が生じたので、本研究におけるWB測定は、政治との関係だけではなく、コロナ禍によるWBや価値観の変化の調査という意義も持つに至った。これは、コロナ問題の発生以前である本研究申請時にはもちろん想定していなかった点だが、社会的には大きな意味を持っている。 さらにプリレルテンスキーやオーズらとの国際的協力についても、コロナ禍のために対面のセミナーはできなかったものの、メールやオンライン・セミナーを通じて推進している。上記の分析結果を含んだ英語記録や著作が公表されたのも、大きな成果である。また国際学会での2報告もこの研究の成果であり、論文としての公表が期待できる。 以上から、研究計画における目標を次々と実現するとともに、当初の計画で想定していた以上の成果を達成している。
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今後の研究の推進方策 |
上記の成果を踏まえて、ポジティブ政治心理学の理論的・実証的研究をさらに進展させる。上記の英文論文に続いて、正義・公正とウェルビーイング(WB)との関係について、さらに高度な分析を行っているので、それを英語論文などによって公表することを目指す。またコロナ禍におけるWBの変化や、WBと公共政策との関係についても、日英双方の言語で論文を執筆して公表したい。また国際ポジティブ心理学会での2報告の内容も、論文として公表することを目指す。 今年度は夏に参議院選挙があるので、その時点で上記と類似したインターネット調査を予算の上で可能な限りの規模で行い、これまでの調査結果とあわせて分析を行う。特に「人々のWB→政治的インプット(選挙結果)→議会の与野党の議席配分・政府」という関係については、これまでは2019年参議院選挙に関する暫定的分析結果を公表しただけなので、この点について分析を深めて結果の公表を目指す。もしこの関係も存在することが明らかになれば、これまでの分析結果とあわせて「政治的アウトプット(政策)→人々のWB→政治的インプット(選挙結果)→議会の与野党の議席配分・政府→政治的アウトプット…」という理論モデルの実証がなされることになる。 今年度は最終年度なので、上記のような研究を進展させることによって、ポジティブ政治心理学を確立させて、政治システムと心理的WBとの関係を明らかにするという本研究の目標の達成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ計画通りの研究内容を実施したが、コロナ禍により旅費と人件費・謝金については当初計画した予算執行をすることができなかった。そのため、ごくわずかではあるが次年度使用額が発生した。
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