研究課題/領域番号 |
20K01473
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
近藤 康史 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (00323238)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イギリス政治 / 社会民主主義 / 政党システム / 福祉国家 / イギリス労働党 |
研究実績の概要 |
本年度においては、1)本研究の研究枠組の形成と、焦点を当てる政策イシューの設定、2)マニフェスト分析などに用いるデータや手法の検討、3)イギリス労働党における社会的投資政策の展開に関する分析を行った。 1)に関して、政党システムの再編と政策イシューとの関係を分析する理論枠組として、イシュー・インセンティヴ・モデルの検討を行い、イシュー特性やイシュー・オーナーシップといった観点から、政党システムの再編を検討する可能性を探った。その上で、様々な文献の検討を行った結果、本研究が焦点を当てるべき政策イシューとして、経済的次元と文化的次元の交錯領域として、家族政策と教育政策に焦点を当てるという結論に至った。 2)に関しては、政党システムの変容に関する比較政治分析で用いられてきたデータの探索を行った。その上で、本研究は政党という「供給」側に重点があることから、Ian BudgeらによるComparative Manifesto Projectや、Frank BaumgartnerらによるComparative Agendas Projectによるデータが有用であるとの感触を得た。 3)に関しては、これまで自身が行ってきた研究との継続性から、イギリス労働党の社会的投資政策、その中でも家族政策の展開について、政党システム変化の観点から位置づける分析を行った。これらの政策を重視することによって、労働党が文化的対立のセイリエンスを高める形で文化的リベラリズムの方へとシフトしていることを明らかにした。またそのことは、特に1990年代以降のブレア党首期に顕著ではあるものの、一般的にはそれに対立すると考えられているコービン党首期(2015-20年)においても、このような社会的投資政策の重視は継続している点を検討した。 これらの成果に関して、社会政治研究会や日英教育学会において口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は初年度として、1)比較政治学の観点に立った理論枠組の形成、2)今後のマニフェスト分析に関する手法とデータの探索、3)具体的な政策形成の動向の把握、を主な課題としていたが、それぞれ次のような進捗があった。 1)に関しては、これまでの研究でも採用してきた経済的対立と文化的対立への対立軸の二次元化という枠組を、福祉国家政策へと発展的に適用するとともに、政党という「供給」側の分析へと接続する可能性に関し、一定の感触を得た。また2)に関しては、マニフェスト分析の手法とデータの探索を行い、当初の想定以上に多くの試みが展開している点と、主に本研究に資するであろうデータと手法の存在にも到達した。さらに3)については、Covid-19の影響で海外調査が不可能となる中、これまで蓄積してきた労働党に関する文書資料を中心に検討を行い、その家族政策や教育政策の展開についての検討が進んだ。 当初は想定していた、保守党や自由民主党に関する上記3)の観点からの検討については、海外調査ができなかったために文書資料が揃わず、遅れが見られるものの、それ以上に上記1)2)の観点においては進捗を得たので、全体としては概ね順調に進展しているとするのが妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の基盤となる理論枠組形成については一定の進捗が見られるが、まだ十分とは言えないことから、引き続き文献収集に基づき、検討を進める。また、マニフェスト分析に関しては、具体的なデータに基づいた分析を一定程度進め、現状の仮説に適合的かどうかを確認する作業を行うが、同時に、データ分析だけではなく、言説分析的な手法の探索を行い、いずれの手法、あるいは手法の組み合わせが有効であるかについての考察を進める。 本研究の軸となる、具体的な社会的投資政策の政策過程の分析に関しては、当初想定していた家族政策については進んでいるが、本年度以降は新たに教育政策に関しても検討を開始する。ただし、教育政策に関しては先行研究も手厚い分野であることから、まずはそれらの研究の検討から始めるとともに、並行してまずは労働党に関する政策文書等の資料収集を行う。同時に、家族政策に関しても、保守党、自由民主党に関する資料収集を進め、労働党と合わせた政党システム変化の動態と過程について、一定の検討を進める。これらの資料については、海外調査を含めた収集を想定しているが、本年度も引き続きCovid-19の影響で海外調査が困難であることも予想されるため、その場合には、インターネットを通じた資料収集を可能な限り進めるとともに、オンラインによるインタビューの可能性も探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)2020年度においては、イギリスの各政党本部でのインタビューや、イギリスの諸機関での資料収集を中心とした海外調査を予定していたが、Covid-19の影響で海外調査を行うことができなかった。また国内出張による資料収集も、行うことができなかった。その結果として、旅費を中心として次年度使用額が生じた。 (使用計画) 2020年度に行うことのできなかった海外調査及び国内機関での調査を、2021年度へと繰り越して行う。ただし、2021年度もCovid-19の状況が不透明であり、海外調査が困難であることも予想されることから、並行してインターネット・オンライン調査の可能性も探り、そのための必要な物品の購入に充てることを計画している。
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