2022年度の研究課題は、多数派限定優遇の比例代表制(PR-LMB)が日本国憲法に違反しないかどうかを検討することであった。憲法学者は、阻止条項を組み込んだ多数派限定優遇の比例代表制にたいして、それが憲法第14条第1項(法の下の平等)や第43条第1項(全国民の代表としての国会議員)に違反するのではないか、という疑問を提起するであろう。そこで私は、多数派限定優遇と阻止条項の合憲性をそれぞれ検討した。第一に、多数派限定優遇については、最高裁が小選挙区制を合憲であると判断した以上、それに比べて非比例性の少ない多数派限定優遇は当然にも合憲であると論じた。加えて、憲法理論で有力になりつつある三段階審査に照らして、多数派限定優遇の目的の正当性、手段の適合性・必要性・均衡性を論証した。第二に、2パーセントの阻止条項については、内閣法制局が3パーセントの阻止条項を合憲であると解釈した以上、2パーセントの阻止条項は当然にも合憲であると論じた(なお、情報公開請求により内閣法制局の解釈を入手した)。加えて、三段階審査に照らして、阻止条項の目的の正当性、手段の適合性・必要性・均衡性を論証した。以上の内容を論文「多数派限定優遇式比例代表制の合憲性」として発表した。当初は英語論文として公表する予定であったが、日本国憲法の文脈で検討していることに鑑み、本文は日本語で執筆し、長めの英文要旨を付けることにした。憲法学者が取り組んでこなかった問題について一定の解釈を示し、今後のたたき台となる成果を上げることができたように思われる。
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