令和5年度では、これまでに収集したデータセットを用いて、戦後日本人の憲法意識に関する論考を、2つのテーマに分けてまとめた。第一に、『平和学辞典』(日本平和学会編、丸善出版、2023年)への寄稿として、「9条と世論」と題し、有権者の憲法9条に関する意識(9条改正への賛否)について、通時的な分析を行った。その結果、1960年、1990年、2005年あたりで憲法意識のターニングポイントがあったことなどが示された。第二に、「地方自治制度と世論」と題し、憲法規定を含む、地方自治制度に関する有権者の意識を通時的に分析し、『地方自治』誌に寄稿した(刊行は令和6年5月)。その結果として、首長直接公選制を定めた憲法93条は、占領期から、有権者の強い支持を得ていたことなどが示された。この知見は、戦力不保持や自治体警察設置など他の占領改革に一般に異論が強かったことをふまえれば、注目に値する。
研究期間全体としては、1945年から2020年頃までの、大手マスメディア(朝日新聞社、毎日新聞社、読売新聞社、NHK)が実施した、あらゆる世論調査の結果を収集したデータセットを作成したこと自体が、最大の成果として挙げられる。令和5年度には、このデータセットを最大限に利用し、戦後各時期にどのような問題が政治的争点となり(世論調査の対象とされていることは、すなわち時代の争点であったことを意味する)、各争点に有権者がどのような意見を持っていたか、を分析する書籍の執筆に着手した(同書籍の完成は研究期間外の令和6年度以降となる)。
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