研究課題/領域番号 |
20K01488
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研究機関 | 愛知大学 |
研究代表者 |
岡田 健太郎 愛知大学, 法学部, 教授 (50641255)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 王立委員会 / 独立調査委員会 / カナダ研究 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、カナダにおける独立調査委員会(カナダでは王立委員会とも呼ばれる)制度について、その歴史や来歴を中心に比較分析するとともに、こんにちのカナダ政治において実際にどのような経緯で設置され、活用されるのかについて考察を行っている。2023年度はようやく可能となったカナダでの現地調査を行うことができ、必要な資料を入手するとともに、関係者へのインタビューなども行って研究を進めることができた。これまで本研究課題で実施してきた研究成果をもとに Comparative Analysis of Royal Commission/Public Inquiry Systems: Lessons from Canada for Japan、Kentaro OKADA、Visiting Faculty Member Presentation, Hill and Levene School of Business, University of Regina と題した研究報告を行うことができ、質疑応答から学ぶところも多かった。また実際に独立調査委員会、王立委員会に関わった研究者らに直接会ってインタビューすることもできた。コロナ禍もあって、日本で入手できる文献やオンライン上で公開されている資料のみにもとづいて研究活動をこれまで行ってきたわけだが、現地で研究者らと直接対話することによって、さまざまな疑問点などを解消することができた。 こんにちかつてほど独立調査委員会は設置されない傾向にある。その理由はさまざまだが、経費がかかること、通常の政策過程から独立に調査を行うことによる、政治への意図しないダメージなどを政権が恐れることなどが理由に挙げられるが、それでも現在、外国からの政治干渉をめぐる独立調査委員会が設置され調査が行われている。現実政治における動向も踏まえて研究を進めていくことにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでコロナ禍もあって現地調査ができず、文献やオンライン上で入手できる資料をベースに研究活動を行ってきたが、そのような限られた状況にあっても、研究の目的に沿ってそれなりに研究を進めることができたと考えている。料金がかかることが多いものの、オンライン資料の充実には目を見張るものがあることを実感した。他方、実際に現地で研究者らに直接会って話を聞いたり、インタビューを行うことで、文献や資料だけではわからなかった点についても理解を深めることができた。研究実績の概要でも示したとおり、カナダで研究報告を行うことができ、質疑応答から学ぶことも多かった。このように、オンライン等による資料収集による研究の遂行と、実際に現地におもむいての研究活動がうまく噛み合った感があると思っている。 2024年1月下旬の現地での研究報告では、質疑応答で日本での独立調査委員会の動向についても質問がそれなりにあった。たまたまなのだが、2024年1月2日に起こった羽田空港での航空機事故について、カナダ現地紙が詳細に報じており、その記事において独立した事故調査の制度が日本にはない点が指摘されていたこともあって、その点についての質問も多かった。
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今後の研究の推進方策 |
こんにちカナダでは、独立調査委員会制度はかつてほど利用されなくなっている。独立調査委員会制度は審議会的機能と事故調査的機能のふたつに分かれるのだが、こんにちでは政策を議論する審議会的なものとしての独立調査委員会があまり見られない傾向にある。理由は膨大な経費や「独立」ゆえに政策課題が政権の手から離れてしまい、政権の意向とかけ離れた内容になることを政権が恐れることなどが挙げられる。そもそも審議会的意味での独立調査委員会が審議する政策課題は、議会での政策課題の議論の延長線上にあるものであることから、近年では政権内で政策立案する傾向が強まったとも言えるだろう。他方航空機事故など、世の中に大きな影響を与えた事案の真相究明のための事故調査型の独立調査委員会はそれなりに設置されており、2023年以降、外国勢力による選挙干渉の疑いに関しての独立調査委員会が設置され、2024年3月現在、関係者への公聴会が開催されており、その概要についてメディア報道もなされている。本研究課題を進めていくにあたっては、現在設置されているそのような独立調査委員会の動向を注視していくことにしたい。 また今後の検討課題としては、カナダにおいて設置された先住民の寄宿舎学校に関する真実和解委員会(TRC)についても分析の必要があると思われる。独立調査委員会は極めて柔軟なアドホックなものであるが、そもそもTRCは中南米での民族紛争などへの事実解明に用いられたものであり、カナダはTRCの枠組みを「輸入」し、独立調査委員会の経験と伝統の上に運用して成果を得た。いわば、独立調査委員会からTRCへ受容と発展があったと考えられるのであり、TRCをそういった文脈から分析する必要があると思われる。先住民政策という観点から、その表象に関して学内で共同研究を行い成果を得られたのは、TRCについての考察を行う準備としてのものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題が採択された2020年以来、いわゆるコロナ禍のため現地調査ができずにいたため、次年度使用額が生じている。旅費に計上していた予算が最終年度まで繰り越されたことが大きな理由であるが、最終年度において旅費に充当する予算も活用した研究活動を行う予定である。なお、科研費の採択期間を延長することとしており、その間に国際学会報告も行うこととしている。
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