研究課題/領域番号 |
20K01489
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
力久 昌幸 同志社大学, 法学部, 教授 (90264994)
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研究分担者 |
河原 祐馬 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (50234109)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ナショナリズム / ネイション / イギリス / ロシア / スコットランド / エストニア |
研究実績の概要 |
本研究は力久がイギリスを担当し、岡山大学の河原祐馬教授がロシア(ソ連)を担当する共同研究である。 2021年度に予定していた国内で実施可能な既存の理論および事例研究の整理については、前年度に引き続きおおむね順調に進めることができた。特に、1970年代にBreak-up of Britainという衝撃的なタイトルの著書を出版したトム・ネアンが、スコットランドのナショナリズムと比べると、イングランドのナショナリズムは反動的、排外的な性格が強いとする以前の立場を、イギリスの地域分権が進んだ21世紀以降やや改めて、進歩的、開放的な性格を持つ可能性を展望するようになっていたことを確認したのは収穫であった。また、ロシアとエストニアの事例を中心として旧ソ連地域の民族問題における主たる課題について考察するために、カレン・バーキーによるロシア、オスマン、ハプスブルクに関する帝国の比較研究を参考にした。 一方、前年度に引き続き、2021年度も世界的な新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、イギリス(力久)およびロシア(河原)を訪問して海外研究調査を行うことがかなわなかったため、研究計画の実施について一定の遅れが見られることになった。 本年度の研究成果については、力久が、イギリスの周辺ネイションの一つであるスコットランドのナショナリズムについてEU離脱との関係について考察を進め、その知見の一部を、国際政治統合研究会にて口頭発表し、その内容を発展させた論文を、「ブレグジットと領域政治:二つのレファレンダムとスコットランド独立問題」として『同志社法学』に発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度の研究においては、本研究に関連する主要な理論・事例研究を取り扱った文献・論文の収集・整理について、前年度に引き続きおおむね順調に進めることができたので、本研究が対象とする分野に関する先行研究の知見を批判的に検討したうえで、本研究の事例分析に適用する分析枠組の構築に向けて着実な前進が見られたとすることができる。 一方、研究期間として2020年度から2022年度までの3年間を想定していた中で、2020年度と2021年度の2年間については、新型コロナウイルスの感染拡大により海外渡航が難しい状況が続くことになった。その結果、多民族国家の中核ネイションと周辺ネイションのナショナリズムについて理解を深めるために、力久が予定していたイギリス、そして,河原が予定していたロシアとエストニアでの海外研究調査を行うことができなかった。 2022年度の新型コロナウイルスの感染状況については予断を許さないところがあるが、わが国を含めて各国がポストコロナを見据えて出入国制限の緩和に舵を切っているので、これまでの2年間で実施できなかった海外研究調査に取り組むことが可能になるのではないかと考えている。しかし、海外研究調査に関する2年間の遅れを取り戻すのは容易ではないことは明らかであるので、より一層の努力が必要であるように思われる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度も、引き続き国内における文献・資料収集を継続しつつ、イギリス、ロシア、エストニアなどでの海外研究調査を行うことにより、本研究のさらなる深化を図りたいと考えている。しかし、2022年2月末に勃発したウクライナ侵攻に伴ってロシアへの渡航中止勧告が出されたことから、2022年度中にロシアでの研究調査を行うことが可能かどうかは定かではない。そこで、ウクライナ情勢の鎮静化を待ってロシアでの研究調査を行う余地を残すために、本研究の研究期間を2023年度まで1年間延長することも想定しておくことにする。 なお,2022年度については、新型コロナウイルスの感染が各国で一定程度継続する可能性はあるが、ポストコロナを見据えた出入国制限の緩和は続けられると思われるので、イギリスとエストニアについては研究調査を実施する現実的な見込みを期待できる一方で、ロシアでの研究調査については、ウクライナ情勢に急速な改善が見られない限り、実施が困難な状況が続くのではないだろうか。そこで、直接現地で聞き取り調査などを行う代替策として、オンラインでの会議ツールの利用や、メールなどを使った文書による調査などを活用したいと考えている。 なお,本研究の完成後に研究成果を広く社会に周知するために、力久と河原の共著でイギリスとロシアのナショナリズムを比較した研究書を出版する計画立案について昨年度より開始したが、2022年度中には同書の大枠を定めるアウトラインを固めることにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度と2021年度の2年間は、先述のように、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により海外渡航が困難になったことから、本研究が想定していた、力久と河原がそれぞれ年間1、2回程度の海外研究調査を実施することがかなわなかった。一方、国内における研究の打ち合わせ等についても、2年間で6回にもわたる感染拡大の波が発生したことから、対面会合および移動による感染の危険を回避するために、オンラインによる意見交換にとどめることとなった。その結果、前年度に続いて、2021年度も海外および国内旅費支出について当初計上していた予算額を消化することにはならず、相当程度の次年度使用額が生じることとなったのである。 2022年度の使用計画については、国内外での新型コロナウイルスの感染状況およびウクライナ情勢の動向次第ではあるが、2020年度と2021年度の2年間に想定していた海外および国内の旅費を繰り越した金額を加えて、ある程度期間を取って海外研究調査を実施したいと考えている。
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