研究課題/領域番号 |
20K01489
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
力久 昌幸 同志社大学, 法学部, 教授 (90264994)
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研究分担者 |
河原 祐馬 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (50234109)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ナショナリズム / ネイション / イギリス / ロシア / スコットランド / エストニア |
研究実績の概要 |
本研究は力久がイギリスを担当し、岡山大学の河原祐馬教授がロシア(ソ連)を担当する共同研究である。 当初の予定では最終年度となっていた2022年度も、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大の影響により海外渡航に関する規制が行われていたことから、イギリス(力久)およびロシア・エストニア(河原)を訪問して海外研究調査を実施することを見送った。それにより2022年度中に本研究を完了させることが困難となったため、研究期間を2023年度まで1年間延長する申請を行い、承認された。 国内で実施可能な既存の理論および事例研究の整理については、おおむね順調に進めることができた。力久は、英露のナショナリズム、もしくは、ナショナル・アイデンティティの比較研究において、両国の政治行政エリートがブレグジットやソ連解体などの危機的状況に直面した際、それぞれのネイションは世界の中で「特別な」役割を果たす使命を有しているというナラティブの存在が、対外政策に対して無視できない影響をもたらしていることを明らかにした研究に触発された。河原は、国会図書館等での数回にわたる調査をはじめ、国内外の課題研究に係る研究資料の収集に努める一方、分担事項に係る研究の大枠となる問題についての先行研究を踏まえた考察を進めるなど、一連の学術的な作業を行った。 本年度の研究成果については、力久が、イギリスにおけるナショナリズムと国家の一体性の関係、およびEU離脱のもたらした影響について考察を進め、日本経済研究センター「欧州研究」報告書『ブレグジット後の英国とEU:新時代の課題と展望』所収の「不透明感強い英国の将来像:国内分裂リスクとグローバル・ブリテン戦略」として発表している。河原は、本年度の学術的な取組を纏める形で、大阪公立大学法学部の夏季集中講義において、「ネイションとナショナリズム」と銘うって研究成果の一部を発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度の研究においては、本研究に関連する主要な理論・事例研究を取り扱った文献・論文の収集・整理についておおむね順調に進めることができた。また、本研究が対象とする分野に関する先行研究の知見を批判的に検討し、本研究の事例分析に適用する分析枠組を構築する作業についても、かなりの進展が見られたように思われる。 それに対して、研究期間として2020年度から2022年度までの3年間を想定していた中で、2020年初頭より始まった新型コロナウイルスの感染拡大により海外渡航が容易ではない状況が続くことになった。その結果、多民族国家の中核ネイションと周辺ネイションのナショナリズムについて理解を深めるために、力久が予定していたイギリス、そして、河原が予定していたロシアとエストニアでの海外研究調査について、2022年度も実施を見送ることとなった。 2023年度に入ってわが国を含めて各国が出入国制限の緩和に踏み切ったことから、これまで実施を見送ってきた海外研究調査について取り組むことが可能な状況となった。一方、研究期間を1年間延長したことで、2023年度には上記の海外研究調査に加えて、既存の理論・事例と本研究の英露の事例を踏まえたうえで、ネイションとナショナリズムに関する総合的な考察を行い、最終的な結論を導くことが必要となるため、これまで以上に研究活動の効率的な実施が求められることになるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度も、引き続き国内における文献・資料収集を継続しつつ、イギリスとエストニアなどでの海外研究調査を行うことにより、本研究のさらなる深化を図りたいと考えている。一方、ロシアでの海外研究調査については、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻が続いており、近い将来、戦争終結の見込みも立たないことから、2023年度中の実施は困難であることが予想される。そこで、直接現地で聞き取り調査などを行う代替策として、オンラインでの会議ツールの利用や、メールなどを使った文書による調査などを活用することが考えられる。 なお、本研究については、研究期間を1年間延長したことにより、2023年度が研究の最終年度となる。2023年度中に本研究を完成に導き、研究成果報告書を提出する予定であるが、その実現に向けて、イギリスやエストニアにおける海外研究調査の機会を利用して、現地のナショナリズム研究者などとの間で意見交換を行うことも重要であると考えている。 ちなみに、本研究の完成後に研究成果を広く社会に周知するために、力久と河原の共著でイギリスとロシアのナショナリズムを比較した研究書を出版する計画を立てている。2023年度中に同書の大枠を定めるアウトラインを固めたうえで、出版社と交渉を行い、2024年度など早期の出版をめざすことにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究期間であった2020年度からの3年間は、先述のように、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により海外渡航が困難になったことから、本研究が想定していた、力久と河原がそれぞれ年間1、2回程度の海外研究調査を実施することがかなわなかった。一方、国内における研究の打ち合わせ等についても、しばらくの間、対面会合および移動による感染の危険を回避するために、オンラインによる意見交換にとどめていた。その後、感染状況が落ち着くにつれて、徐々に国内での資料収集や対面会合などを行うようになったが、2022年度も、特に海外旅費支出について当初計上していた予算額を消化しなかったことから、一定程度の次年度使用額が生じることになった。 2023年度の使用計画については、先述のように、わが国を含めて各国が空港などでの出入国制限の緩和を行っているので、前年度から繰り越した金額を使って、ある程度期間を取って海外研究調査を実施したいと考えている。また、本研究の研究成果のエッセンスをまとめて海外学術雑誌へ共著論文を投稿することも考えていることから、専門業者に英文校閲を依頼することも想定している。
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