本研究の最終年度となった2023年度の研究において、研究代表者、研究分担者ともに、コロナ禍において実施を見送ってきた海外研究調査を行い、ナショナリズムに関わる団体関係者などへのインタビューを実施する一方、大学など研究教育機関所属のナショナリズム研究者と率直な意見交換を行う機会を持った。こうした海外研究調査で得られた知見をもとに、イギリスおよびロシアの中核ネイションと周辺ネイションの事例研究に取り組み、英露のナショナリズムと帝国性をめぐる問題についての考察を進めた。 本研究では、英露の比較分析を通じて、多民族国家における中核ネイションと周辺ネイション、および、それぞれのナショナリズムの特質を明らかにすることがめざされた。本研究の主な成果としては、①ナショナル・アイデンティティ形成において見られる戦略的境界画定行為、②中核ネイションにおける境界拡大指向のナショナリズムと周辺ネイションにおける境界縮小指向のナショナリズム、③境界拡大指向のナショナリズムに対する帝国の影響と境界縮小指向のナショナリズムに対するネイションの政治経済利益の影響、以上三つの知見を挙げることができる。 また、本研究のより広い社会的な意義として、英露のナショナリズムに対する帝国のもたらした影響を明らかにしたことにより、イギリスが今後、国家的一体性を保つことができるのか、またロシアがウクライナ戦争のような帝国主義的勢力拡大を続けるのか、という今日的な問題について考慮するうえで重要な視点を示したことを挙げることができる。
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