研究課題/領域番号 |
20K01495
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
天野 尚樹 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (90647744)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 千島列島 / 北方領土問題 / 日露関係 / ボーダースタディーズ |
研究実績の概要 |
千島列島近現代史の叙述に向けて今年度は、その最重要のテーマである1945年日ソ戦争史の分析に重点をおき、論文を執筆した。これまでの研究史では未使用の新史料を発掘し、ソ連軍側の視点に立った叙述をおこなった。ロシアでの現地調査が困難ななかこのような資料的発見が可能になったのは、ロシア政府が進めた資料のデジタル公開に加え、ロシアの公文書館や博物館職員の協力のおかげであったことを突起したい。この論文は2022年度中に勉誠出版から共著論文集として出版される予定である。 また、現代史について、ソ連崩壊後の1990年代から現在までの状況分析の研究を進めた。その過程で、千島列島のような境界に位置する島(ボーダーアイランド)の歴史と現状を分析するための理論構築をおこない、その理論に基づいて、日本のもう一方のボーダーアイランドである沖縄との比較事例分析による論文を執筆し、「島を規律する:境界をめぐる地政治」(岩下明裕編著『北東アジアの地政治:米中日露のパワーゲームを超えて』北海道大学出版会、2021年)として発表された。 ロシアでの現地調査は依然として不可能で、ロシア人研究者との共同研究についても強い制約が続いている。研究テーマが領土問題というロシア憲法の規定に関わるという問題だけでなく、年度末に発生したロシア・ウクライナ戦争はさらなる制約が今後数年国つづくことが予想される。 コロナ禍により国内調査にも制約が大きいが、短期間ではあるもの、北海道文書館(北海道江別市)で関連資料の収集を集中的におこなうことができた。千島列島近現代史のうち、戦前の日本領時代については資料収集も分析もほぼ終了したといえる状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年7月のロシア連邦憲法改正により状況が根本的に変化した。同憲法内の、「領土割譲に向けた行為や呼びかけを許さない」という規定は、領土係争地域に関するロシア人との協働による歴史叙述を不可能にした。当初予定していたロシアでの出版だけでなく、日本国内での出版も断念せざるを得なくなった。無理に進めた場合、ロシア人研究者の立場が極めて危ういものとなるからである。 日本国内での出版については、したがって日本人研究者のみでおこなうことにした。出版社はすでに決定している。当初は、ロシア人との共著で2022年度内の出版を目指していたが、これについては先延ばしにせざるを得ない。戦後ソ連統治下の千島列島史については、これまで世界的にまったく先行研究すらなく、申請者がゼロから研究を開始することになるからである。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍に加え、2022年2月にはじまったロシアのウクライナ侵攻により、ロシアでの現地調査はおそらく2022年度中は困難であると思われる。戦後ソ連統治下千島列島史についての研究には着手し、すでに収集済みの公刊史資料を用いて研究を進めているが、資料不足は明らかである。ロシア、特に地元サハリン州での資料収集が不可欠であるが、今年度不可能ということであれば、今年度が最終年度の本研究の継続延長願いを申請することになる公算が高い。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍でロシア渡航が不可能であり、また国内調査も事実上不可能だった時期が多く、旅費の支出額が当初予定より大幅に少なかったため。ロシア渡航については、ロシアのウクライナ侵攻により、令和4年度は状況がさらに悪化している。
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