研究課題/領域番号 |
20K01500
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中野 涼子 金沢大学, 法学系, 教授 (90781063)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 文化遺産 / ユネスコ / 日本 / 文化外交 / 歴史の記憶 / 世界遺産 / 歴史認識 / ソフトパワー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、文化遺産の形成・推進にかかわる日本の対ユネスコ文化・外交政策と国際秩序の変動との関連性を明らかにすることである。日本はユネスコを通じた活動において比較的長期の実績がある国である。この日本の外交政策を取り上げて、国際的な社会的関係性の変化を踏まえた政府の対ユネスコ文化・外交政策について考察する。本研究の特徴としてあげられるのは、文化人類学などが中心になって構成される「遺産学」の知見を国際関係論に接続し、包括的な融合研究を発展させるという点である。この目的が達成されることは、社会的関係性やアイデンティティを重視するコンストラクティビズムの国際関係論の発展に貢献することでもある。 3年目にあたる本年度は、オンラインや対面による研究成果の発表6本のほか、査読付き英語論文を1本出版し、従来の遺産研究や国際関係の研究にはない新たな理論的枠組みの構築とその精緻化に貢献することができた。そこでの研究では、ユネスコが世界遺産リストなどに登録する文化遺産が記憶のインフラストラクチャーとして機能すると仮定して、中国、日本、韓国のシルクロードに関する文化遺産への関わり方を体系的にとりあげた。これは、遺産研究と国際関係論を架橋する理論的考察という点で画期的である。 このほか、本研究に関係する研究者同士の意見交換や韓国での聞き取り調査をとおして、最終年度にむけて本研究課題の成果を総括するための情報収集を行った。また、シンガポール国立大学主催の国際秩序に関する共同プロジェクトへの参加を通じて、日本の外交ビジョンに関する理解を深めながら、日本の国際秩序観と文化政策に関する考察を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文化遺産をめぐる国際政治に関して、理論的枠組みの精緻化と日中韓三国の事例分析に基づく考察の両方の作業を行い、その研究成果を査読付きの英語論文として公開することができた。また、韓国におけるユネスコ関係者の聞き取り調査や研究会を通じた意見交換を行うことで、日本の文化遺産政策を外からの視点によって理解を深めることができたことも、今後の日本の対ユネスコ文化政策に関する研究を進めるうえで大きな収穫である。 昨年に引き続き、今年度も文化遺産をめぐる政治に関する領域において、海外の学術雑誌から査読の依頼や講演の依頼が相次ぐようになった。このことは、日本の対ユネスコ外交について継続的に成果を発表している本研究者への認知度の向上を示していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、調査を進めながら執筆活動に従事するが、今年度は本研究課題の最終年度にあたるため、研究成果を総括するような日本の文化外交に関する論文を執筆する。昨年度に出版した英語論文については、国際学会でも発表することで、海外への発信力を高める。また、本研究課題に関連して行ってきた日本の外交ビジョンに関する考察は一つの論文にまとめ、国際学術雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた学会報告が中止になったため、次年度使用額が生じた。今年度は、状況を見ながら海外での現地調査や国際会議での研究報告を対面で行うことで、当該助成金を使用する予定である。
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