研究課題/領域番号 |
20K01504
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
野井 明日香 (長久明日香) 広島大学, 人間社会科学研究科(社), 准教授 (20710677)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 「官僚主導型/官邸主導型」の対外政策決定過程 |
研究実績の概要 |
年次計画では、1年目の令和2年度は、「官僚主導型/官邸主導型」の対外政策決定過程をモデル化する予定であった。そのために、まず、先行研究を整理し、これまでの対外政策決定過程研究の再検討に取り組んだ。まず、「官僚主導型」のモデル化については、特に、近年の研究で見過ごされていた、1970年代における日本の対外政策決定過程のモデル化の試みについて再検討した。その後、1980年代以降の日米貿易交渉研究の中で提示された「外圧論」についても再検討する予定であったが、1970年代の日本の対外政策決定研究は想像以上に膨大であり、まだ、1970年代の研究についての分析を終えることが出来ていない。したがって、これまでの先行研究で示されてきた日本の対外政策決定過程が「官僚主導型」と言い得るのかどうかという点については、まだ結論を得るに至っていない。 次に、「官邸主導型」のモデル化については、経済問題だけでなく、安全保障問題も含めて先行研究を検討した。これによって、従来の研究では十分明確ではなかった、安全保障・政治問題と貿易・経済問題という領域による違いは存在するのかということを明らかにする予定であったが、安全保障・政治問題に関連する研究については、かなり多くの先行研究が存在するため、いまだ途上と言える。 最後に、資料収集、インタビュー調査に関しては、対外政策決定過程の中心的アクターと考えられる政治家、官僚等の回顧録、著書を収集・分析した。まだ、最近の政治家・官僚についての分析は十分ではないが、1990年代頃までの分析はある程度進展した。ただし、外務省、経済産業省等の省庁でインタビュー調査が必要な人物を選定するための作業については、コロナ禍の移動制限などによって、十分な資料収集、聞き取り調査が出来ず、ほとんど進展していない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、第一の理由としては、詳しく調査を始めると想像以上に内外の先行研究が存在し、それらをすべて収集することが出来なかったことである。研究実績のところでも触れたように、近年では十分注目されていない1970年代の研究はかなり豊富に存在し、その一方で、時代の経過によって入手困難な著作があった。この点については、想像以上の先行研究が存在したことは、時間の制約上は問題であるが、研究内容の充実にとってはメリットであり、今後も1970年代の調査を引き続き進めていく。また、これまでは経済問題に焦点を当てていた分析を安全保障・政治分野に広げた点も研究の進展を遅らせてしまった。研究領域の違いによる問題意識の差異が大きく、どの研究まで先行研究として取り込むかは、難しい論点となった。今後、経済問題と安全保障・政治分野との差異についてまとめたうえで、安全保障・政治分野の先行研究については、分析するものを絞っていく。 そして、第二の理由としては、コロナ禍の移動制限であった。先行研究の調査・分析についてはほとんど影響がなかったものの、実務経験者等への聞き取りや東京での資料収集などは全くできなかった。この点は、2年目に予定していた本格的なインタビューの開始に大きな影響を与えると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目、令和3年度の研究においては、1年目の研究において「官僚主導型/官邸主導型」の対外政策決定過程をモデル化したうえで、両者のモデルの比較分析・時系列分析によって、変化の時期を探る予定である。ただし、上述のように、1年目の研究では、政策決定過程のモデル化は十分ではなかったため、2年目も引き続き先行研究分析を進めたうえで、モデル化の完成を目指す。具体的には、1970年代の先行研究分析を続けると同時に、1980年代の「外圧論」についての再考にも取り組むことや、安全保障・政治分野については、経済分野との差異をまとめた上で、研究対象として含むものを出来る限り絞っていく。それらの作業を進める中で、独自モデルの形成にも取り組む。 一方で、資料収集、インタビュー調査に関しては、1年目に十分準備を進めることが出来なかったため、2年目前半はその準備を進めることに当てたい。そのうえで、2年目後半には外交史料館等で官僚レベルの政策決定過程形成に関する資料を収集する。また、複数の省庁の元官僚、現役官僚等へのインタビューを実施する。ただし、コロナ感染症拡大の動向によっては、オンライン等で代替的な活動をすることも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年次使用額が生じたい最大の理由は、旅費と人件費・謝金の使用がほぼなかった点にある。これは、今日のコロナ禍において、資料収集のための旅行や面談を控えたためである。これによって、資料収集に必要な備品購入も進まず、物品費にも次年度使用が生じた。 次年度に消費できるか否かは、状況が改善し、移動や面談が行えるか否かによる。不可能な状況が続く場合は、出来ればオンラインでの情報収集を円滑にするための備品購入等に当てたい。
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