本研究では、米墨国境地域を事例として、いわゆる「トランプの壁」の建設が開始されて以降注目されてきた国境産業複合体の構造と実態を明らかにした。連邦政府、連邦議会、国境セキュリティ産業、大学などの研究組織が一体化し、利益誘導型の国境政治が形成されるプロセスは、ラインとしての国境がゾーンとしての国境に変貌していく様相の解明につながった。こうした状況において、国境の壁の建設が、米墨国境地域の環境破壊や先住民族の居住空間に悪影響を及ぼしてきた事実も明らかになった。国境を長大化することが不法移民の流入の阻止につながるという政治家や官僚の主張は、ポピュリズムの典型であり、国境を舞台とした劇場型政治である。
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