研究課題/領域番号 |
20K01527
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研究機関 | 亜細亜大学 |
研究代表者 |
大原 俊一郎 亜細亜大学, 法学部, 准教授 (00755861)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 集団安全保障 / 自由主義の再検討 / 大国政治 / 東西対立の起源 / ヨーロッパ協調 / ウィーン会議 / 平和秩序の構築 / 両大戦の起源 |
研究実績の概要 |
本課題「戦間前期国際秩序における世界協調の可能性と限界―東アジアをめぐる大国政治の帰結」は、18世紀から19世紀にかけて、理想主義と現実主義の総合の結果として達成された「諸国家体系の成熟」とその具体的成果としての「ヨーロッパ協調」の観点から戦間期を再検討し、とりわけ戦間前期における国際システムの成熟(=世界協調)に真に寄与するはずであった構想や試み、そしてそれを阻害した諸要因を総合的に検討する。研究の重心は東アジアにあるが、最終的には世界秩序全体の相互連関を解明することを目指す。本年度の最大の目標は、ドイツ在外研究において、戦間期・ウィーン体制期比較の実証的な基礎を築くことであり、とりわけ比較の起点となるウィーン会議について、わが国で等閑視されてきた過去50年のドイツ語圏の飛躍的な研究の進展を踏まえ、可能な限り実態を解明することであった。 具体的には、次のような成果を挙げることができる。 ①メッテルニヒによるナポレオン戦争終結への主導性とその延長線上にあるウィーン会議での主導性を明らかにすることであり、検討の結果、本研究課題の主要な主張の一つである理想主義と現実主義との総合はまさしくここにおいて行われていたことが明らかとなった。これは戦間期と比較すれば、ウィルソンの構想に現実主義が欠如していたこと、またそれとは逆にワシントン会議においてはとりわけ米日に理想主義的な秩序構想が欠如していたこととの関係の上できわめて重要である。 ②1815年から1822年において、ヨーロッパに集団安全保障が成立しており、これは画餅に帰した戦間期の集団安全保障と比しても、きわめて実効性の高いものであった。 ③またその集団安全保障体制が崩壊する過程で、イギリスと自由主義が崩壊に対して果たした役割がきわめて大きいものであったことが明らかとなり、カー『危機の20年』との連続性について精査の必要が認められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の比較の起点をなすウィーン会議に関する調査はきわめて順調に展開しているといえる。これは当初の予想をはるかに上回るもので、その意味では「当初の計画以上に進展している」とするのが妥当であるが、コロナ禍による史料収集の停滞があったため、一段階評価を落としている。
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今後の研究の推進方策 |
ウィーン会議前後の1810年~1822年までの国際政治を明らかにした業績は、イギリス外交の問題性に焦点を当てた研究報告を2021年5月に実施した。その後、メッテルニヒによる会議の主導性を大幅に補強・再編して、2022年11月に日本EU学会で研究報告を実施する。また、それを査読付き論文として提出する予定である。それが完了したのちに、本題となる戦間期との比較作業、とりわけワシントン会議に関する実証研究を本格的に実施していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍と北アイルランド情勢の悪化を受けて、公文書館を使用するめどが立たず、マールブルク大学に所蔵されている19世紀の公刊史料を中心とした史料収集となった。そのため、予定していた史料収集に関わる旅費がすべて未使用となった。またドイツ在外研究時の物品費については科研費の利用手続きが煩雑で、海外での使用が難しく、大学個人研究費・自費での出費を余儀なくされた。ドイツ在外研究全体が研究計画において非常に重要な核の一つとなっており、その部分に関する科研費の使用は計画に比してきわめて少額の出費にとどまったものの、わが国においてヒストリオグラフィーの検討が欠落したまま進められる公文書館史料偏重の研究の問題性がドイツ在外研究時に明瞭になったため、研究遂行上の問題はほとんど見られないものと思われる。 今後の使用計画については、公刊史料の購入を進め、コロナ禍等で海外渡航が困難になった場合にも対応できる体制を整えていく予定である。また、ウィーン体制期に関しては、従前の和書・洋書・公刊史料の蓄積があり、予定より図書購入費が抑えられていたが、今後は戦間期の図書購入を中心とした物品費も大幅に増額されていくことが予想されるため、この部分に関しても科研費の使用を進めていく予定である。いずれにせよ、安易に公文書館史料に飛びつくことなく、公刊史料と基本書の読解を地道に進める必要性を認識する貴重な経験を得た。
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