研究課題/領域番号 |
20K01527
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研究機関 | 亜細亜大学 |
研究代表者 |
大原 俊一郎 亜細亜大学, 法学部, 准教授 (00755861)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 諸国家体系の成熟 / 集団安全保障 / 多極均衡 |
研究実績の概要 |
本課題は、18世紀から19世紀にかけての「諸国家体系の成熟」とその具体的成果としての「ヨーロッパ協調」の観点から戦間期を再検討し、とりわけ戦間前期における国際システムの成熟(=世界協調)に真に寄与するはずであった構想や試み、そしてそれを阻害した諸要因を総合的に検討する。本年度の実績としては、次のようなものを挙げることができる。 ①戦間前期国際秩序との比較対象となるウィーン体制期の集団安全保障の構造的前提と形成プロセスを明らかにした。 ②そうした集団安全保障の構造的前提が形成された起源を特定し、そこからの発展過程を明確化し、素描的であっても指し示した。 ③戦間前期における秩序形成の構造的欠陥を特定し、「諸国家体系の成熟」との比較の中で論じた。 ④国際秩序の構造的発展過程の中で、勢力均衡について、二極均衡と多極均衡の違いを具体的に説明し、二極均衡は17世紀以来(厳密には16世紀以来)幾度も戦乱を巻き起こしてきた未熟な国際秩序構造であり、単極支配についてもフランスの覇権に対する対仏大同盟にみられるように二極均衡と不即不離の関係にあり、ともに未熟な段階の国際秩序構造であることを(素描的に)示すことができた。国際政治史の発展過程を正しく読み込めば、多極均衡を成熟させることによってのみ国際秩序の永続的安定化に資することができ、この意味において、二極安定論も覇権安定論もある種「反社会的」ともいうべき国際秩序の逆コースを牽強付会に正当化するための議論と位置付けるべきではないかと指摘した。こうした多極均衡の安定化を通じてのみ国際秩序を永続的に安定化させることができるとする議論は、(大国間のパワー配分の均等化を通じた)多極均衡の形成に失敗した戦間前期の国際秩序の構造的欠陥を明確化するためにきわめて重要な前提となる。 以上の論点の検証を単行論文として公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国際政治史の大構造の解明というスケールの大きな検証作業を進め、その中で戦間期の個別の事件史と構造を位置付ける作業を進めているため、当初の計画からは遅れが生じている。ただし、戦間期国際秩序の構造的欠陥を特定し、それを具体的に説明する作業は着実に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
国際政治史の大構造の解明というスケールの大きな検証作業を進め、戦間期国際秩序の構造的欠陥を特定し、それを具体的に説明する作業は着実に進んでいる。ただし、現段階では国際秩序の構造的発展を説明する際にきわめて重要な「諸国家体系の成熟」の説明を素描的な形でしか示していない。そのため、失敗事例としての戦間期国際秩序の構造的欠陥をより切迫感を持って具体的に説明するためには、成功事例たる「諸国家体系の成熟」のプロセスを具体的に説明していく必要があり、2024年度前半はこの部分の明確化に努め、2024年度内に研究成果を公開する。また2024年度後半は失敗事例たる戦間期について国際秩序形成の点においても「極端な世紀」として20世紀史全体の中で位置付け、具体的に説明していく作業を進め、2024年度後半の研究成果を2025年度に公開する。2024年度末に1年間の延長を申請し、2025年度はそれまでの構造的解明を踏まえて、ワシントン体制の個別の事件史と構造を詳細に位置付けていく。可能であれば、ヴェルサイユ体制と国際連盟の個別の事件史と構造を詳細に位置付ける作業を進め、戦間前期国際秩序全体の欠落と欠陥の全体像をきわめて明瞭かつ具体的に示していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究課題の実施後すぐに発生したコロナ禍において研究課題を実行するため、当初の事件史の解明を中心とした研究方法から構造史の解明を中心に据えた方法論への転換を行った。これは2020年から2021年にかけて実施したドイツ在外研究においてエッカルト・コンツェ教授の指導を経て決定したものである。以上の経緯を経て、当初計画の大部分を占めていた旅費への支出の実施を大きく縮小しても研究課題を進めることのできる体制を整え、当初計画よりもかなり少ない資金で研究課題を進めることが可能になっている。ただし、当研究課題は研究期間の延長を検討しており、その際の事件史の精査のために未使用額を消化していく予定である。
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