研究課題/領域番号 |
20K01530
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研究機関 | 清泉女子大学 |
研究代表者 |
大井 知範 清泉女子大学, 文学部, 准教授 (90634238)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 海軍 / 帝国 / スポーツ / 交流 |
研究実績の概要 |
本申請研究は、20世紀初頭の帝国主義体制下における帝国間の協調的つながりを解明すべく、アジア太平洋の海域世界で活動していたイギリスとドイツの在外海軍に注目している。そこでは、両者の相互的な協調関係、とりわけ先行研究で明らかになっていないイギリス側のドイツに向けた視線を史料に基づき考察することを目的としている。 しかしながら、研究期間の初年度にあたる当該年度では、COVID-19の感染拡大にともない海外への渡航調査が遂行できず、イギリス国立公文書館における史料調査が実施不可能となった。そこで、研究代表者が過去に入手済みの史料、ならびにインターネットで閲覧可能な一次史料を利用し、以下のように研究計画を変更したうえで、そこから一定の学術的な成果を得ることができた。 今回、アプローチの方法として20世紀初頭の各国海軍が実施した「スポーツ」の役割に注目し、東アジアにおけるその活動状況と国家の垣根を越えた交流の様子を史料から跡づけた。具体的には、東アジアで発行された英字新聞The North-China Herald、およびこの地域の主要なドイツ語新聞4紙を活用し、日常のスポーツ交流の実態を浮かび上がらせた。そこには、東アジアで大規模な海軍戦力を配備する英独だけでなく、フランス、ロシア、オーストリア=ハンガリー、イタリア、アメリカ、オランダ、日本といった国も加わり、この地に海軍スポーツの交流文化が存在する史実を明らかにした。つまり、寄港地でのスポーツの試合やイベントは、海軍の軍人同士が直接顔を合わせる社交場として機能していたといえる。この社交文化と信頼醸成のメカニズムに目を向けたことで、従来の国際関係史研究において見落とされていた帝国間関係の日常的な構築過程を明らかにすることができた。 以上の研究成果は学会誌に投稿し、本報告書執筆時において査読の結果を待っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
申請時には予期していなかった新型コロナウィルスの感染拡大により、研究計画の大部分に変更を余儀なくされた。とりわけ、本研究はイギリスへの渡航と現地での史料調査が計画の中心であったため、研究方法を大幅に見直す必要に迫られた。また、コロナ禍における校務等の負担増加により、当該研究のために十分な時間を確保することがかなわず、文献の分析や論文執筆にあてる時間が限られた。 研究費の執行の点でも、申請時に計上した予算の大半は海外渡航旅費として使途を定めていたため、年度予算の約7割が未消化となった。そうした想定外の事態においても、文献の購入など研究基盤の拡充には力を注ぎ、可能な範囲内で文献の収集を進めることができた。これらの限られた研究資源の利用、および当該研究の開始以前に収集していた史資料を活用し、本年度はイギリスとドイツの海軍間関係におけるスポーツ交流の意味について考察を深めた。それらは当初の研究計画のなかには盛り込まれていなかったが、結果的に研究の厚みを増すことに寄与し、次年度以降の研究と組み合わせることで新たな学術的知見の発見につながるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後コロナ禍が世界的に終息へ向かい、海外渡航が可能になり次第、速やかにイギリスへ赴き国立公文書館の所蔵史料の調査と収集を開始する。しかし、研究期間2年目においてもその実施が困難な状況であれば、最終研究期間である3年目に複数回の海外渡航調査を実施し遅れを挽回する。最終年度でも渡航が不可能な場合、あるいは渡航回数が不足し十分な史料調査ができなかった場合には、イギリス国立公文書館の所蔵状況をオンラインで調査し、複写物の郵送による入手を検討する。 海外渡航が可能になるまでの間は、国内でも入手が可能な研究文献や公刊史料を調査収集し、必要に応じて国内の史料館や図書館に赴き実地で調査と収集を進める。その場合は、海外調査旅費を国内調査旅費に切り替え、また同時代の日本の新聞史料の活用を通じて、日本に来港したイギリスとドイツの軍艦の様子と関係性の分析に研究をシフトする。これにより、東アジアにおける帝国アクター間の協調的な交わりの一端が検証できると見込まれる。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19により、海外渡航調査用の旅費の支出、および現地での史料収集費用がまったく拠出されなかったため。 生じたこの助成金は、翌年度に追加で実施する海外調査旅費と史料購入費にあてる予定である。
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