研究課題/領域番号 |
20K01530
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研究機関 | 清泉女子大学 |
研究代表者 |
大井 知範 清泉女子大学, 文学部, 准教授 (90634238)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 帝国主義 / 海軍 / 協調関係 / 対立関係 / 1914年 |
研究実績の概要 |
本申請研究は、20世紀初頭の帝国主義体制下における帝国間の協調的つながりを解明すべく、アジア太平洋の海域世界で活動していたライバル国、つまりイギリスとドイツ・オーストリアの在外海軍に注目している。特に本研究計画ではイギリス側の視点に力点を置き、ドイツ・オーストリアの同盟国海軍、さらには日本海軍の動向にも注視したものである。 本年度の研究期間中にとりわけ注力したのは、東アジアにおける「1914年」の意味をめぐる史料分析である。20世紀初頭の帝国主義国間の協調関係の本質を考察する際、この「1914年」という分水嶺が持つ意義はきわめて大きい。同年の7月から8月にかけてヨーロッパでは大戦が勃発し、さらには8月下旬の日本の対独宣戦により戦争の局面が東アジアへ拡大した。大戦前のこの地域に見られた帝国間の「協調」がこれを機にどのように変質したか、①大戦直前の様子(1914年前半)、②急転(1914年夏)、③大戦勃発直後の様子(1914年後半)に分けて検討した。考察の素材としては、東アジアの外国人居留地で発行された英字新聞『ノース・チャイナ・ヘラルド(The North-China Herald)』、および東アジアの代表的なドイツ語新聞『東アジア・ロイド(Der Ostasiatische Lloyd)』『上海通信(Shanghaier Nachrichten)』『ドイツ・日本ポスト(Deutsche Japan-Post)』を調査分析した。その結果、本研究の主課題である「協調」と「対立」の融合メカニズムを解き明かす重要なカギが「1914年」という年全体(および前半期と後半期の対照関係)に含まれていることが見出された。こうして得られた知見は、次年度に予定している海外での資料調査の基盤となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
過去2年の研究期間に引き続き、本年度も新型コロナウィルスの感染拡大がいまだ終息しない現状ゆえ研究計画の大部分において変更を余儀なくされた。とりわけ、本研究はイギリスへの渡航と現地での史料調査が計画の中心であったため、研究方法を再度大幅に見直す必要に迫られた。幸いなことにコロナ禍は小康状態となりつつあるが、旅費の急騰と急激な物価高により在外研究の実施にはさまざまな制約が加わり、当初予定していたイギリス国立公文書館における史料調査も実施を見送らざるをえなかった。 こうした不可抗力に直面したものの、前年度は研究代表者が過去に入手済みの史料、ならびにインターネットで閲覧可能な一次史料を利用し、その成果は軍事史学会編『軍事史学』に発表することができた。さらに当該年度では、新たに以下のような研究を試み、そこから一定の学術的な成果を得ることができた。 研究費の執行の点でも、申請時に計上した予算の大半は海外渡航旅費として使途を定めていたため、年度予算のほとんどが未消化となった。そうした想定外の事態においても、文献の購入など研究基盤の拡充を図り、可能な範囲内で資料の収集を進めることができた。これらの限られた研究資源の利用、および当該研究の開始以前に収集していた史資料を活用し、本年度は「1914年」の転換点に関する調査と考察を深めた。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍が終息へ向かいつつある現状に鑑み、次年度はイギリスへ赴き国立公文書館の所蔵史料の調査と収集を進める。可能であればイギリスへは複数回渡航し、またドイツやオーストリアの文書館調査にも出向き、これまでの史料収集の遅れを挽回する。渡航回数が不足し十分な史料調査ができなかった場合には、イギリス国立公文書館の現地調査と複写物の郵送依頼を組み合わせ必要な資料を効率よく手に入れる。研究予算に余裕があればオーストリアとドイツにも複数回渡航し、必要な文書館史料や図書館資料を入手する。また、必要に応じて国内各地の史料館や図書館に赴き、実地で研究文献や公刊史料の調査と収集を進める。とりわけ、同時代の日本の新聞史料などを活用し、日本に来港したイギリスとドイツの軍艦の様子と関係性を分析対象とする。これにより、東アジアにおける帝国アクター間の協調的な交わりの一端が検証できると見込まれる。研究の方向性の一部をこのようにシフトする場合は、海外調査旅費の一部を国内調査旅費に切り替え対応する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外渡航調査が実施できなかったため。 翌年度は海外での史料調査を複数回実施し、助成金をそのための旅費として使用する計画である。
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