研究課題/領域番号 |
20K01532
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
柑本 英雄 日本大学, 法学部, 教授 (00308230)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | EGTC / EU / 領域的結束 / スケール間の政治 / クロススケールリージョナルガバナンス |
研究実績の概要 |
本研究は、EUが領域的結束を高めるため設立した「欧州における領域的協力団体(EGTC)」が、ハンガリーの国境地帯で、旧東欧へのEU統合拡大を担う「国境の相対化」のツールとして使われていることを明らかにし、国境沿いの越境地域ミクロリージョンでの国際的アクター間の権力関係「スケール間の政治」を分析することを目的とする。 研究計画初年度は、ハンガリー北部のスロバキア国境地域に位置するEGTCを調査し、オーストリア=ハンガリー二重帝国のなごりである「連続したハンガリー人コミュニティ」の福利増進のために、ハンガリー国家政府がEGTCを推進している可能性を検証する予定であった。しかし、COVID-19の影響により現地調査がかなわなかったため、ハンガリーのシンクタンクCESCIの年鑑“Cross Border Review”をはじめ文献・資料の調査により、EGTCやクロスボーダーコーポレーション(CBC)、クロスボーダーリージョン(CBR)の概念整理や理論的理解を深めるとともに、CESCIやEU、関係機関のウェブサイトから現状把握のアップデートを行い、将来的な現地調査の準備補強に努めた。 ここで分かったことは、EUの領域的結束促進の障害となったCBCやCBRの問題点克服のため、institutionとしてEGTCが設立されていく前段階として、予算的な処置であるINTERREG、スケール的な処置であるEuroregionなど、さまざまな取り組みがなされてきたことである。EU、地方政府などの国際的アクターがスケールを越え連携し、国家の意図とは異なる政治的動きを展開するEGTCの分析により、国境をめぐる複雑なスケール間のパワーの闘争を可視化し、協調的なマルチレベルガバナンス(MLG)モデルではなく、敵対的なクロススケールリージョナルガバナンス(CSRG)モデルが有効であることが、より明確となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、現地欧州でのインタビュー調査を主な手法とするが、COVID-19の影響で海外出張が困難となり、ハンガリー北部のEGTC調査を実施することができず、現場の言説レベルの検証がかなわなかった。そこで、研究代表者が長年にわたり収集し蓄積してきた紙媒体の資料や記録群を、改めて時系列に沿って振り返り、ハンガリー国境の経年変化観測を行った。さらに、最新の文献やウェブサイトで公開される資料の収集と読み込み、CESCI事務局長Gyula Ocskay氏をはじめEUの関係者や研究者の協力のもと最新情報の提供を受け、将来の現地調査の準備としての理論的な補強とアップデートを進めることができた。また、ハンガリー情勢についての知見は、立命館大学の田中宏教授ら国内の専門家との議論を通じて常にアップデートし、おおむね順調に進捗できている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画2年度目は、依然としてCOVID-19の終息が見通せない中で進めることとなるため、理論的補強のための文献・資料やウェブサイトからのEU最新情報の収集と、それらの読み込み、分析を引き続き進める。これに加え、セミナーやコンフェレンスの参加、関係者へのインタビューなど、オンラインでの方策を探りながら、ハンガリー東部の国境地域EGTCの意図を検証し、本研究の仮説の立証作業を進めたい。具体的には、EU非加盟国ウクライナが参加する唯一のEGTCについて、EU東欧拡大の事前準備としての国境相対化のあり方と、EUとウクライナの国家・地方政府の意図を探る。また、後発のEU加盟国ルーマニアの地方政府は、ハンガリーの地方政府から、農業・地域開発・持続可能なエネルギーなどの越境プログラムに関する、EU補助金獲得のノウハウを得るためにEGTCを設立している可能性がある。それらのケースでは、EGTCそのものが国際法人格を持つ機構の地位を生かし、越境プログラムのリードパートナーとして専門家の雇用や不動産取得をすることも考えられ、この点も視野に入れながら検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で、予定していた海外出張が実施できなかったため、次年度使用額が生じた。 研究計画2年度目は、引き続き、EGTCを法的、理論的に理解し、EUや国家、地方自治体などの政策的意図を検証するために、EuroregionやEU地域政策、分析枠組みとしての政治地理学関連などの文献・資料の収集と読み込み、分析を行う。さらに、セミナーやコンフェレンス等へのオンライン参加費も経費として計上する。
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