研究課題/領域番号 |
20K01537
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
神江 沙蘭 関西大学, 経済学部, 教授 (90611921)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国際政治経済学 / 経済外交 / ドイツ / 日本 / 欧州統合 / ミドルパワー / 国際関係 |
研究実績の概要 |
2020年度は、1980年代~2000年代のドイツの経済政策志向や欧州での金融システム・政策に関する思想的・制度的展開について分析を進め、ユーロ危機や欧州統合の文脈からその問題等を分析した単著、『金融統合の政治学:欧州金融・通貨システムの不均衡な発展』(岩波書店、2020年9月)を出版した。またユーロ危機後の銀行同盟形成について民主主義の観点から検討を進め、テキスト向けに論文を書き下ろし、出版した(拙著「ユーロ危機と銀行同盟:統合条件の再交渉」伊藤武・網谷龍介編著『ヨーロッパ・デモクラシーの論点』ナカニシヤ出版、2021年2月)。 またマクロ経済成長戦略との関係でドイツと日本の近年の政策展開をどうみるか比較分析を進め、共著者Spielau氏を含めた日欧の研究者と2021年社会経済学発展学会(Society for the Advancement of Socio-Economics)にパネル・プロポーザルを提出し、アクセプトされた。さらに日・独の経済外交の分析として、国際金融規制分野での両国のミドル・パワー外交について分析した論文「Germany and Japan: Great or Middle Powers in Global Banking Regulation?」を Giacomello and Verbeek編著『Middle Powers in Asia and Europe in the 21st-Century(Rowman & Littlefield)』に寄稿、2020年7月に出版した。加えて、日本のG7/G20における経済外交に関する論文を2020年4月に戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies)からワーキング・ペーパー(Strategic Japanシリーズ)として出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研費プロジェクトの一環として、欧州統合におけるドイツの経済外交と成長戦略に関する分析を加えて、2017年~2019年にも科研費から補助を受けた欧州統合とユーロ危機に関する研究プロジェクトを完成させ、岩波書店から出版できたのは一つの大きな成果である。また欧州における民主主義という広い政治的文脈から当該問題を捉え、テキスト用に書き下ろすことができたのも一つの社会貢献であったといえる。 また本科研費プロジェクトの下で国際共同研究も順調に進んでおり、2021年7月にオンラインで開催される社会経済学発展学会(Society for the Advancement of Socio-Economics)では、共著論文「Much Ado about Price Competitiveness? Diverging Growth Strategies in Times of Crises in Germany and Japan」を報告する予定である。報告に向けた準備と調整を継続し、順調に進展している。また国際金融規制分野での日・独の外交に関する寄稿論文やG7/G20での日本の役割に関するCSISワーキングペーパーは、日・独の経済戦略と外交姿勢との関連性を明確にするもので、本科研費プロジェクトが順調に進展してきたことを示す。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降の優先課題の一つは、2020年度に出版した著書『金融統合の政治学:欧州金融・通貨システムの不均衡な発展』(岩波書店、2020年9月)をここ数年の銀行同盟と欧州金融規制に関する展開、地域統合・経済統合に関する理論的発展等を踏まえて修正し、オックスフォード大学出版会に英語版の完成原稿を提出することである。二つ目は、2021年7月に開催される社会経済学発展学会での報告論文「Much Ado about Price Competitiveness? Diverging Growth Strategies in Times of Crises in Germany and Japan」(Alexander Spielauとの共著)を完成させることである。日・独が1990年代~2000年代初の経済危機下で価格競争力強化という観点で異なる政策をとった点に着目し、その背景を分析するものである。また学会でのフィードバックを踏まえ、出版に向けた原稿の完成を目指す。 さらに関連プロジェクトとして、瀧井一博氏、苅部直氏等とともに国家と宗教、法の連関性について考察する共同プロジェクトを進めており、私自身は国家論という観点から欧州統合をどう理解するか分析を進めている。これは国際マクロ経済レジームの中で、各国がどのような経済外交をとったかを考察する本科研費プロジェクトとも関連しており、成果論文執筆に向けた準備を進めていく。加えて2021年度EU学会では公開シンポジウム『ポストBrexitのEU世界戦略』に登壇し、ポストBrexitの国際経済・金融市場のあり方を考察し、EUがどのような機能を担うか等を論じる予定である。これは国際マクロ経済レジームの変化が外交に与えるインパクトを検証する本科研費プロジェクトとも関連しており、当日の報告・議論に向けた準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの蔓延の影響で国内外での移動を伴う調査活動ができなかったため、次年度使用額が生じた。学会や研究会はほぼオンラインに切り替わり、関連機器の購入等に関する支出は増えたものの、旅費の支出は減少した。8万円の残額については、2021年度にオックスフォード大学出版会に単著の完成原稿を提出する予定なので、その英文校閲費用の補填に用いる。
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