研究課題/領域番号 |
20K01537
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
神江 沙蘭 関西大学, 経済学部, 教授 (90611921)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国際政治経済学 / 経済成長戦略 / 経済外交 / ドイツ / 日本 / 欧州統合 |
研究実績の概要 |
2021年度は、国際共著本『Invested Narratives: German Responses to Economic Crisis 』への寄稿論文について(章タイトル:「Germany's Compromises: The Impact of Crisis Narratives on the European Central Bank and Euro Governance」)、編者や査読者からのフィードバックを受けて修正し、2022年中にBerghahn Booksから出版されることが確定した。また前年度から進めている共著論文Konoe and Spielau「Much Ado about Price Competitiveness?: Diverging Growth Strategies in Times of Crisis in Germany and Japan」について、2021年7月5日社会経済学発展学会(Society for the Advancement of Socio-Economics、オンライン開催)で報告した。その後オンライン会合を重ねつつ、学術雑誌投稿のための修正作業を進めている。 また11月7日開催の日本EU学会の公開シンポジウム「ポスト Brexit の EU 世界戦略─対外関係の再構築と加盟国間関係のゆらぎ」に登壇し、報告と意見交換を行った(報告タイトル「ブレグジットとEU金融市場政策の再形成」)。その報告内容をまとめた文書は、日本EU学会年報(第42号)に掲載される予定である(2022年出版予定)。その後シンポジウムの企画者・登壇者との間で、安全保障と金融の領域でブレグジット後の欧州統合のあり方を検討する編著企画が立ち上がり、現在研究会合を重ねつつ、共著論文の執筆を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度中に日・独の経済成長戦略の比較等について研究を進め、輸出志向型経済と分類される両国間でも、その価格競争力の重視の程度は異なる点に着目した。そこでは、両国の1990年代の危機の違い、為替システムによる制約の違い等が影響している点を明らかにした(2021年度社会経済学発展学会での報告)。さらにドイツの経済政策・成長戦略はEU内での制度形成と密接な繋がりをもつが、イギリスのEU離脱によって市場創出型の改革の実施という点ではドイツは域内で重要なパートナーを失った面もあり、これがその後のEUの金融ガバナンス形成(例えば、資本市場同盟等)にどう影響するのかについて、分析を深めることができた(2021年度日本EU学会公開シンポジウムでの報告)。これらのテーマについては、これまでの国際共同研究に加えて、国内の先鋭の研究者と共同研究の場を得ることができた。 さらに研究期間終了までの重要な課題として、2020年度に出版した著書『金融統合の政治学:欧州金融・通貨システムの不均衡な発展』(岩波書店)を修正し、その英語版を出版するという目標がある。2021年度中に英語版の原稿を作成し、オックスフォード大学出版会に提出、査読(ピア・レヴュー)を受けることができた。現在は査読者からのコメントを受けて、本格的に修正に取り組んでおり、出版に向けて前進している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の優先課題の一つは、『金融統合の政治学:欧州金融・通貨システムの不均衡な発展』(岩波書店)を修正した英語版の原稿について、査読プロセスで指摘された問題を修正し、新しい先行研究をフォローしつつ、再度の査読に耐える原稿を仕上げることである。この研究ではEUの制度形成におけるドイツの経済外交の影響力やその問題等を検討しており、本科研課題と密接な関連性をもつ。 二つ目の優先課題は、2021年度日本EU学会の公開シンポジウム企画から立ち上がった編著企画を進め、自身の章の原稿を仕上げることである。そこでは、ブレグジット後のEUの域内外の経済外交や金融市場政策のあり方について、ドイツやイギリス、フランス等の欧州主要国の政策立場やパワー・バランスの変化等を視野に入れつつ分析する。また、現在長期化するウクライナ戦争の文脈において、欧州諸国の経済・金融分野での協力体制がどう変化したか等についても検討する予定である。本プロジェクトでは6月に再び会合を開催し、9月末に原稿の提出予定となっている。本寄稿論文は、近年の国際政治環境でドイツの経済外交や戦略はどう変化したかを分析する視点を含み、本科研費研究課題の一環である。 三つ目の優先課題は、日独の経済成長戦略を比較した国際共著論文「Much Ado about Price Competitiveness?: Diverging Growth Strategies in Times of Crisis in Germany and Japan」の修正を順調に進め、本年度中に学術雑誌への投稿・査読の段階へと前進させることである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度中に日本EU学会、日本政治学会、日本国際政治学会、社会経済学発展学会(SASE、国際学会)に報告者あるいは討論者として参加したが、コロナ禍のため、国内外全ての学会はオンラインで開催された。その他の科研費プロジェクトに関連する研究会合も全てオンラインで実施されたため、旅費等が生じなかったのが次年度使用額が生じた主な理由である。また、国内外で予定していていた移動を伴う調査活動も、移動制限等の影響で予定していた時期に実施困難であったことが影響している。2022年度は学会・研究会開催等も対面が再開しつつあり(2022年5月現在)、移動を伴う調査活動も制約が少なくなっていることから、2022年度の研究調査活動に使用する予定である。
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