研究課題/領域番号 |
20K01537
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
神江 沙蘭 関西大学, 経済学部, 教授 (90611921)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 国際政治経済学 / 経済成長戦略 / 経済外交 / ドイツ / 日本 / 欧州統合 / 次世代EU / 金融市場 |
研究実績の概要 |
2022年度は、国際共著本『Invested Narratives: German Responses to Economic Crisis 』を11月に出版した(寄稿論文のタイトル「Germany's Compromises: The Impact of Crisis Narratives on the European Central Bank and Euro Governance」)。また、EU研究者との共著書籍『EUの世界戦略と「リベラル国際秩序」のゆくえ』の出版に向けて、寄稿論文「複合危機下のEU資本市場政策:ブレグジット/新型コロナウイルス危機への対応」を入稿した。この書籍は2023年5月に明石書店から出版されている。さらに、国際日本文化研究センターを拠点とした研究活動に基づき、日欧の政治思想・法学/政治学等の研究者との共著書籍『リヴァイアサンとしての国家:国民統合と安全保障(仮題)』の作成に取り組んだ。寄稿論文として、「EU市場統合と「社会的市場経済」:複合危機と安定化機能の担い手(仮題)」を入稿した。この書籍は2023年度中に出版予定である。 本科研研究は、国際経済レジームの変容下でのドイツや日本等の経済外交を対象としている。2022年度の研究では、このうちドイツ・EUの政策に焦点を当てた。そこではブレグジットによる欧州資本市場の分断や、新型コロナウイルス危機下での欧州のマクロ経済環境の悪化等を受け、欧州の証券市場政策や財政政策において、統合が進展した側面を検討した。特に、深刻な経済低迷とリベラル秩序への脅威に直面する中、需要回復等による経済安定化に向けて、緊縮財政を重んじるドイツ等が欧州レベルでの財政政策の拡充を容認した点に着目した。欧州金融・財政政策の変容について引き続き研究を進めており、2023年度の日本比較政治学会等で報告予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、2020年のブレグジットや同年から本格化した新型コロナウイルス危機、2022年からのウクライナ戦争という欧州・世界の大変動期において、経済・社会の安定化のため、地域共同体や国際フォーラムが果たす役割が拡大した傾向を分析した。経済危機の克服や経済成長のため、ドイツや日本も地域・国際レベルでの協調を一層求められている。本年度は特に欧州の文脈でその実態を検証し、論文の執筆や研究成果の出版を進めた。 ドイツは従来の緊縮財政の姿勢を緩和させ、「次世代EU」等のEU全体での共同債の発行や補助金の支給等に同意し、その進展にイニシアティブを発揮した。他方で、新型コロナウイルス危機下での供給網の断絶やウクライナ戦争によるエネルギー高騰に直面した日本にとって、経済安全保障という観点から近隣諸国や友好国との連帯や新たな友好関係の構築の必要性が一層高まっている。 2022年度は欧州の文脈でドイツ等の経済外交と昨今の危機対応に焦点を置いて研究を進めたが、研究期間の最終年度となる2023年度には、複合危機下での日本の国際的な役割についても再検討し、日本とドイツの成長戦略と外交姿勢についてその取り組みの比較を行う。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度前半は、近年の複合危機下でのEUの財政・金融政策の変容を分析し、昨今の危機下で経済戦略の方向性がどう変化し、欧州統合の進展がドイツ等の各構成国の成長戦略とどう関連づけられたのか検討する。その研究成果は、6月17日の日本比較政治学会(山梨大学)で報告する予定である。さらに11月10~12日の日本国際政治学会で、ウクライナ戦争の影響等を踏まえたEU資本市場政策や財政支援について報告する予定である(報告パネルの設置について現在申請中)。加えて2023年度後半、日本の経済安全保障戦略や自由で開かれたインド太平洋戦略、それに関わる外交関係の構築等について検討を進め、リベラル国際秩序の維持に向けた日・独の取り組みとその経済戦略との関連について考察を深める。 さらに出版面では、以下のプロジェクトを優先して進める。一つ目は法哲学研究者等との共著図書の出版に向けた論文の執筆であり、そこでは市場・通貨統合を進めたEUの民主的正統性の問題を、近年の危機対応の文脈で再検討する予定である。リベラル国際秩序の担い手であるEUが、その内部での正統性の問いにいかに答えるかは、その構成国ドイツの憲法規定による欧州統合への制約に関わる。二つ目は、昨年度から引き続き、単著図書『金融統合の政治学:欧州金融・通貨システムの不均衡な発展』(岩波書店)を大幅に修正した英語版の原稿の修正を進める。そこでは2020年代の危機や欧州統合の変容を踏まえた近年の新たな理論展開を反映させ、銀行同盟の進展や直近の銀行破綻の影響等についてもアップデートを行う。さらに可能な範囲でコロナ禍で停滞していた国際共同プロジェクトを再開させ、日独の比較分析について共著論文の修正を再開させる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は新型コロナウイルス蔓延に伴う渡航規制や社会的状況等によって、海外学会への対面参加や海外での調査活動等が困難であった。そのため、海外渡航等で予定されていた費用の支出が生じなかった。また国内の研究者との共同研究においても、2022年度の研究会合のほとんどはオンラインで実施され、旅費等の負担は限定的にとどまった。このために次年度使用額が生じることになった。2023年度は国内での研究大会(対面)に複数参加する予定であり、科研費の残額は主に学会参加費用や研究調査費、論文の英文校閲費等に使用する予定である。
|