コロナ感染が収束し研究者の行き来も再開したことから、2022年9月と翌年3月にスペインへ史料収集に赴けた。 手を入れたため最終年度中には叶わなかったが、近々英語論文が出版できる(3)参照)。また、日本からインドへのオラノ猊下救出のための外交取引についての研究もスペイン外交史料を投入して進められたので、発表・出版する。 研究期間全体を通じて、1)グアム司教オラノ猊下の伝記のための史料についての全体像の量的な分析、2)同史料のうち米海軍支配下から日本占領期さらには日本への強制退去までの時期の、ナバラ・カプチン会の宣教師から最後のスペイン人のグアム司教となったオラノ猊下の外交とは如何なるもので、支配者が変わることによってその目的とあり方に変遷があったかについての質的な分析、3)同史料のうち日本強制滞在中の年代記(1942年~1943年)の質的な分析から、当時の日本のファシズムがどのような形態で、カトリック教会にどんな圧力をかけているかを掌握したうえでグアム司教として洞察に基づいた教導的な外交を繰り広げていたことが明らかに出来た、4)米海軍基地グアム最後のスペイン人司教が体験した、米海軍総督との軋轢、米海軍支配から日本軍支配への移行に伴う、スペイン人司教が司牧するカトリック教会への風当たりとカトリック教会の持つ意味との変化、日本軍と「日本の」カトリック教会とのチャモロ先住民に対する扱いなどについての貴重な証言を掘り起こせた。 この研究は、第一次・第二次大戦中、「中立」であったスペイン出身の、平和の仲介者としてのカトリック司教が、その外交を通じてカプチン会のモットーである『平和と善』の実現にどのように努力したか、そこから普遍の価値の希求において我々人類が見習うべきこと、見失ってはならないことは何か、国家と宗教とのあるいはカトリック教会との健全な関係について洞察を促す意義と重要性を持つ。
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