研究課題/領域番号 |
20K01544
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
千葉 早織 京都産業大学, 経済学部, 准教授 (50770880)
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研究分担者 |
堀 一三 立命館大学, 経済学部, 教授 (60401668)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 組織運営 / 情報 / 双方向コミュニケーション / 集団意思決定 / チープトーク |
研究実績の概要 |
本研究では、組織内に散在する情報を意思決定者により正確に伝えるためにはどのようにすべきかに着目して分析を行い、最適な組織体制について知見を与えることを目指す。現在、3件の研究代表者と研究分担者による共同研究を遂行している。いずれの研究においても、各主体間には選好の相違があり、それゆえ自己利益達成のために戦略的に行動することを想定しており、よって、ゲーム理論を用いた分析を行う。 研究1. “Two-sided Strategic Information Transmission”は、組織などにおける意思決定者とその他の利害関係者(例えば、経営者と従業員)の双方が最適な意思決定を下すために不可欠な異なる独立した情報を有する場合を想定し、この二者間の双方向コミュニケーションが、各主体の信念、及び、意思決定に与える影響を分析する。特に、その他の利害関係者のみが情報を持ち、一方向なコミュニケーションのみを考慮している伝統的なモデルとの差異を明らかにすることで、伝統的な手法に則った組織研究の含蓄を踏襲することができるのかについて検討を加える。 研究2. “Group Talk and Group Decision Making”(仮題)は、私的情報を持つ複数の利害関係者が合議によって意思決定を行う状況(例えば、取締役会や議会での意思決定)を分析する。利害関係者が自由な意見交換(チープトーク)を行なってから決議する場合や、直接に公開投票を行う場合などを想定し、それぞれの情報開示が逐次か同時の場合を比較し、効率的な意思決定方法を探る。 研究3 “Persuasion from Multiple Senders”は、研究2と同様に、私的情報を持つ複数の利害関係者から、いかに正確な情報を引き出すかについて分析する。ここでは、複数の独立の情報を一まとめにして、一人の送り手から発信させるべきか、もしくは、其々の情報を一人の送り手に個別に発信させるべきなのか、という組織形態についての論点について理論的検討を加える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績概要」に記載の各研究について、現在までの進捗状況は以下の通り。 研究1については、Crawford & Sobel (Econometrica 1982) に代表される、チープトークモデルの一様分布・二次形式利得関数(Uniform Quadraric)の例を用い、二者の情報が加法的、或いは、乗法的に最適な選択を決める場合(例えば、投資額を決定する場合、二者の情報を x、y とすると、x+y或いは xy が意思決定者にとって最適な投資額)、二者間の(最適な選択についての)利益相反の程度に関わらず、意思決定者からその他利害関係者への情報伝達が、反対方向の情報伝達の質を左右しないこと(中立性)を示した。加えて、意思決定者からその他利害関係者への情報伝達が、反対方向の情報伝達の質を悪化させるケースの存在も示した。そして、これまでの研究成果を、研究分担者がEconometrics Scociety World Congress(2020年8月)等の査読付き国際・国内学会にて発表した。加えて、Games and Economic Behavior(査読付き国際誌)から改訂の指示を受けて再投稿し、現在、審査結果を待っている。 研究2については、利害関係者の利益相反が無く、情報伝達に制約がある(言葉の字数が限られている)状況の分析に焦点を絞り、先ずは、個別例を用いて、利害関係者が逐次に発言する場合と、同時に発言する場合を比較した。そして、逐次トークモデルにおいて、弱い情報を持っている利害関係者が前の発言者に追随する均衡を示し、加えて、この結果が同時トークモデルの均衡と比べて全体として効率的(或いは、非効率的)である条件を示した。 研究3については、全ての情報を一人の送り手に集中させるよりも、二人の送り手に分散させた方が意思決定者に取って望ましいこと、そして、送り手の数を無限大にすると、有意な情報伝達ができなくなり意思決定者に取って望ましくなくなること、つまり、情報の送り手には、最適な人数があることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績概要」に記載の主研究について、今後の推進方策は次の通りである。 研究1については、上述の通り、査読付き国際誌への掲載を目指し、必要に応じて原稿の改善や投稿を継続する。特に、上記論文では、中立性が成り立つ条件を示したが、一方向の情報伝達のみが望ましい場合、もしくは逆に双方向の情報伝達のほうがより望ましい例などが見つかっている。そこで、より一般的モデルを用いることで、組織内で一方向のもしくは双方向の情報伝達をどのような場合はするべきか、の解明を目指す。 研究2と3については、本年度より、学会、学術誌に投稿し、研鑽を始める。具体的には以下の通りである。 研究2については、各モデルにおける複数均衡や均衡選択の分析を完成し、最適な意思決定方法を探る。また、この結果を、公開投票モデルに拡張して、先行するDekel & Piccione (JPE 2000)の結果と比較することで、本研究の特徴を明らかにする。特に注視するのは、コミュニケーションカスケード(皆が同じ言葉を繰り返し、私的情報が共有されない現象)やグループシンク(集団浅慮)などの現象であり、それらの組織に与える影響の善悪について議論する。ここで我々の研究の目新しい点は、カスケードは、既存研究では組織には悪いとみなされていたが、必ずしもそうでないことを明らかにすることにある。また、意思決定を改善するための組織の対策についても議論する。 研究3については、具体例を用いたシミュレーションを示すことで、結果の直感的理解ができるようにするとともに、最適な人数がどのような要素によって決定するのかを理解するきっかけを見つける。そして、理論的に、それを解明することを目指す。それによって、組織の最適な規模が一体どのような要因によって決定されるのかという洞察を得た上で、なぜ企業ごとに組織の規模が異なるのかを解明することを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス蔓延により、令和2-3年度に予定していた研究代表者・研究分担者の海外出張や国内出張を全て中止し翌年度以降に延期したことによる。 新型コロナの収束後は、当初に計画していた通り研究代表者・研究分担者の海外出張や国内出張を行い、2022年11月予定の UECE Lisbon Meetings in Game Theory and Applications in Portugal、2022年12月予定のCommunication Persuasion Workshop Annual Meeting in Tokyo、2023年1月予定のASSA Meeting in USAなどに参加する予定である。
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備考 |
研究代表者(千葉)とKaiwen Leongとの共同研究"Cheap Talk with Outside Options," および, Chien-Yuan Sher他との共同研究"Can length limit for app titles benefit consumers?-An information theory perspective."
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